心に蓋は、いらない。いつか撮りたい一瞬を、その十七音が教えてくれた。

同じものを好きだと感じられる相手に出会えたら、それは幸福だ。
表現の方法に違いがあっても、例えば小説と音楽であっても、
創作する者同士、どんな「好き」をインプットして形と成すか、
その感覚を語り合い、その感性を共有することは有意義で楽しい。

写真と俳句は、一瞬を切り取る。
その一瞬を、小説で如何に表現するか。

緻密で連続的な情景描写が、その一瞬に出会うとリズムを変える。
山を登り、汗をかき、息が切れ──ある瞬間、ぱっと前が開ける。
一人きりの撮影旅行をする「私」は、その情景に心を惹かれる。
「私」は無我夢中でシャッターを切り、一瞬を切り取っていく。

ああ、この人には私の「好き」がわからないんだな、とか。
結局この人は外側だけしか物事を見ていないんだな、とか。
そういう、もどかしさを抱える「私」の気持ちには強く共感した。
もどかしさを振り切るためにエネルギーを振り絞った経験もある。

「それは文字で表現できない」と言われ、悔しい思いをした。
スポーツの試合に感動して、その躍動感を描きたいと口にした日。
「若い女に書けるはずがない」と言われ、ふざけんなと思った。
膨大な情報と覚悟が必要な戦の歴史小説を、だからこそ私は書く。

「恋の話」でありつつ、創り手の感性の在り方を描く物語。
感性に「蓋」をしている人、されている人には響くはずだ。
爽やかな風が導く先の開放感を噛み締め、味わっていただきたい。
できるなら声に出して、十七音の響きを楽しんでいただきたい。

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