たまには逃げるのも良いんじゃないか?

奴は名を名乗った。

「ここで会ったのも何かの縁だ。お前の事は生かしておいてやろう。俺の名はクルジュ、クルジュ・アンディルム」

これから先は復讐屋をクルジュと呼ぶことにしよう。


 クルジュは僕の脇腹をいつも持ち歩いているというナイフで刺した。

激痛がとまらず僕は目を開いているのがやっとの状況で、次何をしてくるか分からず怖かった。


だが奴は僕を逃した。

これから先の何かを予測し、何かを待っていた。

ここで逃げたら僕は一生の恥だ、だがここで逃げないヤツほど馬鹿ではない。

とりあえず僕はティルの待つ王宮へ歩いた。


そして僕は道中、気を失った。


それから何時間ほど経ったのだろうか。

誰かが僕のローブから何かを取り出した。

ポーションだ。

僕はこの世界の回復薬に救われた。


「目を覚ましましたか、無事で何よりです。」

ウルズだった。

ティルの親衛隊隊長の少年。

また彼に助けられた。

僕はティルを守りたい、でも僕は守れない。

ウルズの方が力はあるように感じる。

僕は本当にこんな事をしてていいのだろうか。


僕はウルズを思い切り突き飛ばした。


「何するんですかっ!!」


僕の心はいつからこんな廃っていたのだろう。

彼への妬み、悔しさや怒りが僕の心を覆った。

何故だろう、それはきっと彼には力があるからだ。僕には力なんてない。

何も守れないし気どっていただけだ。

「悲劇の姫を守る勇者」そんな物語に憧れていただけで、そのごごっこ遊びをしているだけで。

なんだか自分が変われる気がした、なんだか生きていけそうな気がした。

現実世界での自分に絶望していた日々が、こんな鮮やかな空、澄みきった海、色が深々しい森林。

こんな世界で僕はいちから人生をやり直したかった。

僕は自分を悲劇のヒロインとでも思っていたのだろう。

何もかもに絶望し、誰からも必要とされず、行き場のない思い。

そんな人生は辛いの何物でもなかった。


僕はウルズから逃げた。

はるか北へ、走って逃げた。


歩き続けた僕は疲れ寝た。

夜が明けまた歩き続けた。

そして寝て、起き進み、休み。

そう繰り返すこと3日。

初めて行く街があった。


そこで僕はあっと驚くような光景を見た。

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