結局の所、彼女は何を望んでいたのだろう?

武后に縋った願いを皮肉な形で成就させた彼女だが、仮に忌まわしいプロセスを経なくても、武后と対立しかねない願望を持続できたとは思えない。
歪んだ宮廷生活を送る間に正常な判断力を失ったものと思われる。
主人公と同様、歩むべき道を見失う悲劇が現実世界の我々に降り掛かる可能性だってあるわけで、一種の警告と解釈するべきなのか?

なぁんて堅苦しいレビューを書きたくなるくらい、中国の時代小説らしい文体で物語が進んで行くわけですよ。読み応え抜群です。

ところで、河合塾の講師が解説する世界史で勉強したんですが、唐が新羅と組んで百済を滅ぼし、その後に高句麗を滅亡させた大戦略の裏には高宗に対する則天武后の唆しがあったそうです。
白村江の戦いで敗れた大和朝廷は則天武后の間接的被害者だったんですねぇ。

確か、水戸黄門の「光圀」の「圀」は彼女の作った則天文字。日経新聞に掲載された漢字学者のエッセイで触れられてました。

彼女の悋気の被害者も多かったんでしょうが、そんなリスクと無縁な我々にとって魅力的な人物であることは間違いない。
それを十分に感じさせる作品です。

短編にはMAX2つが信条なんですが、星3つ付けました。

その他のおすすめレビュー

時織拓未さんの他のおすすめレビュー556