螺鈿の鳥
結城かおる
第1話
大唐は長安の
さて、崔子温は高官の身として、女傑で名高い皇后の
しかし、宮中より声がかかったのは姉の仙花のみであった。後宮の花に選ばれた仙花は有頂天となり、歯軋りやまぬ妹を尻目に、目もくらまんばかりに華やかな礼服に身をつつみ、五色の房が垂れさがった輿に乗って、彼女は意気揚々と
おさまらないのは妹である。
「…しかし、お前、そんなことをお前がつとめおおせると思うのか?」
仰天する父親を意に介さず、白い頬に朱をのぼせ、仙月は頑として自分の望みを主張し続けた。かたくなな娘に父親は困じ果て、ついには折れて彼女の願いを叶えてやった。
それからさらに一月後、今度は黒塗りの地味な輿が宮城の後門に消えていった。
「そちが崔子温の娘か」
后妃達の住まう
さようでございます、と面を伏せたまま答えた宮女に、後宮の主人である
「さきごろ入宮した
「いいえ、私はかねてより皇后様の盛名を仰ぎ見、
さらに頭を低くした新入りの宮女を武后は
「
言いしな、相手を威嚇するかのように、武后は立ち上がった。さすがの仙月も顔を青ざめさせ、背に汗をかいた。彼女の頭上に、甲高い笑声が響き渡る。
「は!よろしい!ここで狐を飼ってみるのも一興。崔子温の娘とやら、我がもとで仕えるを許す。聖上と私、そして帝室の名を汚さぬよう、いささかも
***
注1「太常卿」…中国の官制である九卿の一つ。太常は、祭祀儀礼を掌る。
注2「定婚」…婚約。
注3「蓬莱宮」…長安の東北に位置する大明宮は、一時このように呼ばれていた。
注4「掖庭宮」…後宮。
注5「才人」…後宮の妃嬪の一。
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