女の妬心は底が無い!

質の高い、文章力が時代の空気感を醸し出す事に大きく作用した作品でした。

WEB歴史時代小説で、文章と時代がマッチした作品は実は少ないので、それだけでも、この作品の質と作者の力量が判ります。
気品ある文章と語彙は、大唐帝国の絢爛豪華な時代を現すには十分なもので、その知識量も圧巻の一言。物語性については、特に何も言う事がありません。

描写やセリフ、ストーリーも、女の世界を女で体験していない僕には、到底書けないなと思いました。まるで、化粧品の美容部員か保育園に於ける女社会の暗闘のようで、妬心からくる憎しみには、何とも息が詰まります。

ただ、主人公と姉の関係性を掘り下げれば、もっと怖さを感じたと思います。姉妹の歪んだ情念があればこそ、ラストシーンが栄えると思いました。兄弟も親子も、身近だからこそ憎しみの蓄積も人一倍。ならば、そのバックボーンは何処にあるのか? それがもっと知りたかった。この物語に於ける楽しさの原動力は、主人公の情念にあると感じましたので。

さて、歴史時代小説の楽しみ方は千差万別。新しい知識を入れる事を楽しむ読者もいれば、単純にエンターテインメントとして楽しむ事が目的の読者もいます。
この物語は、特に前者向けではないかと思いました。良く言うと、よく調べよく書かれています。言葉選びに時代の空気感も十分に出ていますし、僕も勉強になりました。
しかし、一方で「もっと簡単に表現してもいいのでは?」という疑問も湧いてきます。
判りやすく注も付けているのは凄く有り難く勉強になりますし、著者の中国世界への並々ならぬパッションを感じますが、それにより物語が分断される恐れもあります。特にエンタメ作品として物語に没入したいと思う人には、そのポイントが少し注が多いと感じました。
しかし、これは完全に好みです。司馬遼太郎や和田竜のように、史料紹介を入れる作者がいる一方で、そうしたものは物語の没入性を阻害すると、一切排した北方謙三もいますし、どちらも凄い作家であります。なので、こうした意見もあるという事で止めておいて下されば幸いです。


ただ、物語の完成度は他のレビューが示すように素晴らしいです。馴染みのない時代ですが、もし江戸時代の大奥ものを書いたら、人気が出るのではないでしょうか!

いいものを読めて、眼福でございました。


※このレビューは、WEB歴史時代小説倶楽部による、感想企画の一環です。
お勧めポイントと共に気になる点も挙げたのは、著者了承済みの事ですのでご容赦くださいませ。

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