必殺レベルの渋さです!

 タイトルにある「食客」とは、有力者に才能を買われ客人として遇される人間のことでして、主に春秋戦国時代の中国においてこのような風習があったのだとか。衣食住を提供される食客の大半は、その見返りとして、己の才能を活かして主に忠義を尽くすことになります。
 しかし、この物語に登場する女食客ニトは、体格はご立派だが動きの鈍い怠け者で、昼寝ばかりする食いしん坊。とある商家で長年養われているものの、特筆すべき才能も見当たらず、現在店を切り盛りする女将さんとその娘レミルにはすっかり呆れられている。
 そんな彼女たちの暮らす街で、とある日、刃傷沙汰が起こる――。


 初めは、「食客」という語感からアジアンテイストなファンタジー世界を連想し、本作の主人公はあの有名な某ファンタジー作品に登場する短槍使いの女用心棒を「鈍く」した感じかなあ、などと勝手にイメージしていたのですが、読み進めるにつれ、物語世界は想像のはるか上を行く展開に!

 プロローグと6つのエピソードで構成される「第1話」で強烈なバトルシーンを華麗に決めたこの食客、用心棒にしてはめちゃくちゃアヤシイしめちゃくちゃコワイ。あまりの豹変ぶりに、見てはならぬものを見てしまったような戦慄を覚えます。
 やがて、商家で働く面々やその周辺の人たちの中にも、胡散臭そうなのがぞろぞろ登場。極めつけは女将の旦那で、婿養子であり街の小役人である彼の名はドモン。モンドじゃなくてドモンです。「こ、これはもしや…!」と閃いた方、すぐに本編を読んでその予感が当たっているか確かめるべし!

 短編連作スタイルのこの作品、各話それぞれに、凝った設定のハードボイルドなストーリーが詰まっています。ウリのアクションシーンはそのままに、「人の闇」のドラマが、ある時はおぞましい迫力で、またある時には切ないトーンで描かれ、バリエーションに富んでいる点も魅力です。
 何も知らずにニトたちと暮らしている女将や娘のレミルは、「闇」に対する「光」のような存在と言えるでしょう。二人が絡むほんわかしたシーンが、ハードな物語にほっとする瞬間を与えています。食客ニトや「請負人」と呼ばれる者たちもこの二人と一緒にいる時は「表の顔」を装っているわけですが、そんな時間を楽しんでいるようにすら見える彼らは、「光」である二人のことを心から慈しんでいるのだなあ、とその渋い優しさにますますほれ込みます。

 語りすぎない地の文の朴訥とした雰囲気も、物語にさらなる渋みを与えています。必殺レベルでカッコイイです(「第6話-終」まで読了時点での感想です)。


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