重なり合う悲恋の物語

主人公の男性がある女性に恋をして、辛く悲しい失恋を経験します。
主人公はそんな失恋で傷ついた心を癒そうと、怪異の噂が立つ町へと赴きます。

なぜか?

人は日常で起きた喪失を非日常の中で埋め合わせようとする生き物だからです。
(傷心旅行という言葉があるでしょう?)

作者はこれを作中で「人間は何かから本気で逃げ出したい時、今いる場所より明るいどこかに行きたいとは不思議と思わない。むしろ暗い方へ淋しい方へと足が向く」と看破します。

鋭い洞察だと思いました。

町に着いた主人公は、暗く寂しい木造アパートで、偶然にも失恋した女性と同じ名前の別の女性と出会います。
そしてそこで彼女と怪異体験を共有することになるのです。

果たして主人公の心の傷は本当に癒されるでしょうか。

ホラーでありながら恋愛小説でもある本作は、丁寧な情景描写とみずみずしい心理描写を交えた秀作です。

ぜひご一読ください。

その他のおすすめレビュー

藤之森ちょろりさんの他のおすすめレビュー27