夢見る少女スカーレットは未来人への恋を貫く
- ★★★ Excellent!!!
太平洋戦争の開戦直前、女学校に在籍していた内向的な「私」は、
普段どおり一人きりで過ごす図書室で、不思議な手紙を見付けた。
美しい筆跡の手紙は「タイムマシンを信じるか?」と問うている。
鼻で笑った「私」だが、気まぐれを起こし、返事を書いてみた。
手紙の主は未来人「ジョージ」を名乗り、様々な予言をする。
図書室の誰も読まない本を介して続けられる、風変わりな文通。
「私」は次第にジョージを信じ、顔も見えない彼に惹かれていく。
純真な少女の恋の決意は固く、将来の夢さえ決定してしまうほど。
物語の時制は「私」の女学校の在学から10年後の昭和25年であり、
ジョージはの恋は雑誌記者のインタビューに答える形で語られる。
淡々とした語り口の中に、少女の瑞々しさがうかがえると同時に、
太平洋戦争間近の緊迫感が伝わってきて、ぞくりともする。
偶々最近、都内の女学校の戦時下の状況(工場勤務)を調べた。
灯火管制の夜も『風と共に去りぬ』を暗唱する級友の傍に集まり、
遠い外国を舞台にした恋物語に思いを馳せてはしゃべっていた、と
幾人かの手記に「スカーレット」が登場したことを思い出した。
個人的な見解だが、本作は純文学ではなく大衆文芸だと感じた。
スパイ物のミステリは多分にエンターテインメントだと思う。
すばるの純文学ならポップでエンタメな印象があるけれども、
群像はもっとぶっ飛んで(たまにラリって)いる気がする。
希望ある未来を予見する第6章は好みが別れるのではないかと思う。
私の個人的な趣味で言えば、謎めいた雑誌記者の退場で幕引き、
という終わり方のほうが戦争の爪痕の痛みが刺さってきて好きだ。
(繰り返しますが、意見には個人差があります)
もう1点、やかましいことを述べてしまうと、用いる言葉のこと。
昭和の前半を生きる主人公の一人称に平成の言葉が使われている。
上から目線、穏やかなトーン、絵面がシュールであるなど、
ちょっとしたところではあるけれども、気になってしまった。
夜の学校で手製のプラネタリウムを見上げながら語り合う、
あのシーンの時代感覚や緊迫感、臨場感がとても好きだ。
昭和25年における、癖のある2人の噛み合わない会話もいい。
口うるさいことを言いつつも、結局いちばん言いたいのは、
「とても楽しんで拝読しました」