夢見る少女スカーレットは未来人への恋を貫く

太平洋戦争の開戦直前、女学校に在籍していた内向的な「私」は、
普段どおり一人きりで過ごす図書室で、不思議な手紙を見付けた。
美しい筆跡の手紙は「タイムマシンを信じるか?」と問うている。
鼻で笑った「私」だが、気まぐれを起こし、返事を書いてみた。

手紙の主は未来人「ジョージ」を名乗り、様々な予言をする。
図書室の誰も読まない本を介して続けられる、風変わりな文通。
「私」は次第にジョージを信じ、顔も見えない彼に惹かれていく。
純真な少女の恋の決意は固く、将来の夢さえ決定してしまうほど。

物語の時制は「私」の女学校の在学から10年後の昭和25年であり、
ジョージはの恋は雑誌記者のインタビューに答える形で語られる。
淡々とした語り口の中に、少女の瑞々しさがうかがえると同時に、
太平洋戦争間近の緊迫感が伝わってきて、ぞくりともする。

偶々最近、都内の女学校の戦時下の状況(工場勤務)を調べた。
灯火管制の夜も『風と共に去りぬ』を暗唱する級友の傍に集まり、
遠い外国を舞台にした恋物語に思いを馳せてはしゃべっていた、と
幾人かの手記に「スカーレット」が登場したことを思い出した。

個人的な見解だが、本作は純文学ではなく大衆文芸だと感じた。
スパイ物のミステリは多分にエンターテインメントだと思う。
すばるの純文学ならポップでエンタメな印象があるけれども、
群像はもっとぶっ飛んで(たまにラリって)いる気がする。

希望ある未来を予見する第6章は好みが別れるのではないかと思う。
私の個人的な趣味で言えば、謎めいた雑誌記者の退場で幕引き、
という終わり方のほうが戦争の爪痕の痛みが刺さってきて好きだ。
(繰り返しますが、意見には個人差があります)

もう1点、やかましいことを述べてしまうと、用いる言葉のこと。
昭和の前半を生きる主人公の一人称に平成の言葉が使われている。
上から目線、穏やかなトーン、絵面がシュールであるなど、
ちょっとしたところではあるけれども、気になってしまった。

夜の学校で手製のプラネタリウムを見上げながら語り合う、
あのシーンの時代感覚や緊迫感、臨場感がとても好きだ。
昭和25年における、癖のある2人の噛み合わない会話もいい。
口うるさいことを言いつつも、結局いちばん言いたいのは、

「とても楽しんで拝読しました」

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