この愛は美味しすぎる。愛が大盛りすぎる。何て贅沢な欲張りレシピだ!

タレントが主人公というのが、まず物珍しくて目を惹かれました。
ビジュアル系バンドから料理タレントに転身なんていう、いかにもおかしみのある設定も妙味です。

死んだ姉の忘れ形見(姪っ子)を扶養しながら、日々タレントとして料理を紹介する生活。
でもそれは、ほとんどが姉貴の残したレシピばかりで。
姉の受け売りで仕事を続ける主人公を、冷ややかに蔑視する忘れ形見……。

二人の静かな軋轢、すれ違い、葛藤のせめぎ合いが、これでもかと読み取れるんです。
描写自体は少ないです、最低限です。字数制限が厳しい中、ギリギリまで削ったことが伝わります……でも。
でも。

こんなにも感情があふれている。

料理のちょっとした筆致から、タレントのキャラ性から、会話の微妙な言葉選びから、どうしてこんなにも気持ちを読み込めるのか。

ピーマンという「ほろ苦い」小道具、そっと触れたレシピノート、忘れ形見が心を閉ざす理由、そして心を開く瞬間の口調、涙、情緒……。

人はたった数千字で、これほどの心境を「盛れる」のか。
もう、本当に満腹でした。

最後のカラオケパートは蛇足かなとか思ったりもしましたが、それは誤読でした。かつての自分のヒットナンバーを揶揄することで、新しい自分の始まりを宣告する、とても愛に満ちたシーンでした。

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