人類への警鐘と希望が込められた渾身のSF大作

囚われの身の科学者が伝説のアトランティス大陸を目指す脱獄物語を主軸に、彼の生い立ちの物語、そして彼が発見した「手帳の中の物語」を絡ませて展開するSF巨編。
3つの物語が交差しながら進んでいくものの、そのナレーションがすべて読みやすい語りで、分かりやすい構成で進められていくので、迷うことなく話を追っていくことができます。

スケールの大きな脱走劇を前に、主人公を取り巻く天才科学者たちや、彼を支える者たちがどう関わってくるのか。物語が絡み合うなかで、彼らの人物像や人間関係もくっきりと浮かび上がります。そこで感じるのは、本当の友を持つ幸福。どんな状況でも信じ合える者がいる心強さ。

天才科学者である主人公の境遇はまったくと言っていいほど幸せではありません。幸福を追求して生み出したはずのものも、使い方を誤れば人を不幸に貶める。理想と現実のはざまに苦しむ姿には、過去を生きた(あるいは現在を生きている)科学者の悲しみを見るようです。

彼の目に映る世界のありようは、おそらく筆者の見るそれと同じなのだと思います。そこには人類への絶望感、怒り、警鐘が表れています。しかし同時に、アトランティスに象徴される希望や、人類への果てない願いも強く感じるのです。
SF娯楽大作であると同時に、生きる上で忘れたくない箴言がたくさん織り込まれたお話です。すべての世代の方にお勧めします。

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