眉目秀麗、頭脳明晰、才色兼備、それでいて大きな病院の跡継ぎの少女。しかし少女の日常は色を欠いていた。学校では男子たちに気味悪がられ、家では成績のことばかりで、まるで檻の中にいるようだった。
そんな少女の目を引いたのは、明るく元気で運動神経抜群の少女だった。「檻」の中にいる少女は、太陽のような笑顔の少女に憧れ、自分を月の様だと感じる。
やがて少女は「檻」の中にいることに、限界を感じ始め、家を飛び出す。公園で出会ったのは、太陽のような少女。太陽の少女は言う。
「あんた、私のこと、見てたでしょ?」
「どうして、わかったの?」
「私もあんたのこと、見てたから」
ここにきて月の少女は、互いに意識していたことを知るのだった。
そして、ついに月の少女は、自ら檻を脱する。
その日は、雨が降っていた。
そして二人の少女は……。
切なくも美しい物語。
是非、ご一読ください。
今、同性愛者を社会的に受け入れて行こうという活動も公になってきたと思う。
性的マイノリティゆえに差別されることに、僕は疑問を感じる。
必ずしも性のたいしょうではないと思う、心が惹かれた相手が同性であるだけかもしれない。
言葉では一括りにできない『個』というものを尊重、理解しなければならないと考えている。
同性愛者だけではないのだが、日本は多数決で物事が進むことが多く、その結果に不満因子を蓄積させるだけのように感じる。
マイノリティにされてしまった側の主張も拾い上げることこそ、大多数の責任だと思うのだが…。
作品感想とはズレたが、僕は、この2人の結末がどうであれ、きっと後悔しないための行動だったのだろうと素直に楽しませていただきました。
一度しか会話をしたことがない夕希と涼
しかし夕希は涼を、そして涼は夕希をずっと気にしていた。
夕希は月で涼は太陽、互いは互いに惹かれていることも気づかず
年月を過ごす。
模試の結果が思わしくない夕希は、偶然涼を見つけ後を追う
二人とも互いの存在が特別なものだと分かり合うものの
夕希は自分の心を塞いでしまった。
この後二人の心は結ばれるのですが、その過程で苦しむ描写の
夕希の心が痛いです。
そして二人で駆け出して行く未来が雨であるということも
雨の対極である晴れに進んでいくのではないかと感じさせます。
大切な人というのは、一瞬でお互いが気づくのかも知れません。
どこまでも透き通った美しさに引き込まれる物語です。
欲しいものは何一つ手に入らない、自分の人生ですら自分のものではない、そんな閉塞感に押しつぶされそうな夕希。
そんな彼女が目で追うのは、入学式の日に一度だけ微笑みを交わした快活な涼。
月と太陽、同じ場所では輝けない二人だと思い込んでいた夕希は、太陽に近づいたことを転機に徐々にもがき始めます。
涼もまた、自分が月を照らすことで彼女をより輝かせたいと思うようになるのです。
彼女達の未来は、ラストの美しい風景に暗示されています。
心が共鳴し、より一層強く煌めき出した二つの光は、きっと読む人の心に鮮烈な印象を残すことでしょう。
檻(これは比喩であり、なぜこの言葉が用意されているのかは、本編をご覧ください)に閉じ込められた、女子高生の夕希。彼女には自ら輝くことの出来ない、月であった。
彼女を美しくその姿を輝かせる太陽、それが同級生の涼。
二人が互いの存在を知り、結末へ向かうのですが、その過程がとても美しい文章で綴られています。
俳人でも一流の作者が語る文章は、どこを切り取ってもため息が出るほど美麗なのです。
もしろ、良い意味で詩に近いかもしれません。
天空に浮かぶ月は、姿を変えます。でも地上の月、夕希は涼の光によって、本来の美しい姿の全てを浮かべていくことでしょう。
そして、雨。
こんなにも雨を嬉しい気持ちにさせてくれる今作、ぜひ多くのかたにご覧いただければと願っております。