第11話 教室

 夏休みが終わった。


 二学期の登校初日に優樹は、早めに起きて余裕を持って家を出た。


『あら、行ってらっしゃい。気を付けてね?』


 優樹の自宅を囲う塀の上からクラウディアが、彼の頭の中へと声を掛けてきた。

 挨拶をしたクラウディアは、欠伸をすると大きく身体を伸ばす。

 優樹の世界でクラウディアは、白猫の姿に変貌していた。


「ああ、行ってくるよ。クラウディアも散歩するなら車に気を付けてな」


 優樹はクラウディアに返事をすると、学校へと向かった。




 優樹が学校の教室に入ると、来栖は既に自分の机に座って今日の授業への準備をしていた。


 夏休み中もテニス部の合宿で会ったり、一緒に海や山へ遊びに行ったり、宿題を終わらせる為に図書館へ通ったりもした。


 いつも見ている顔が、その机の上にある安心感……。

 それが決して長くは続かない事を、優樹は知ってしまった。

 少しだけ寂しさを感じたが……今は考えても仕方が無い、とも思った。


「オッス!」

「おはよう!」


 優樹が挨拶をすると、来栖も笑顔で返す。

 他のクラスメイト達とも挨拶を交わすと、優樹は来栖の斜め後ろにある自分の席に着いて親友との雑談に入った。


 やがて、朝のホームルームを始めるチャイムの音が教室に鳴り響く。


 教室の教壇の近くにある扉が開いて、優樹達の担任が入って来た。

 いつもと違うのは……その後ろから美しい女性が、続いて入って来た事だ。

 担任の先生が、その女性についてクラスの生徒達へ説明してくれる。


「今学期から火曜日と木曜日に英会話の授業を担当してくれる新しい先生だ。みんな、宜しくな!」


 その女性は美しく長い金髪をしていた。

 英会話の授業を担当するという事は、英語圏の外国人だろうか?

 優樹は初めて会う筈の女性だったのに、その顔に何故か見覚えがある気がした。


「そ、それでは、自己紹介を御願いしますっ!」


 美女を前にして担任の先生も少し緊張気味の様子だった。

 女性は教卓と黒板の間に立つと、凜とした声で元気に挨拶をする。


「皆さん、初めまして! 私の名前は、キャサリンと申します……。この後の始業式が終わったら早速、今日の午前の英会話の授業から、皆さんの担当を受け持つ事になりました。気軽にキャッシー先生と呼んで、仲良くして下さいね?」


 クラスメイト達から歓声が、あがった。

 男子だけかと思えば、女子からも溜め息の様な声が漏れている。

 それだけキャッシー先生は、綺麗な大人の女性に見えた。


 生徒達の歓声に迎えられたキャッシー先生は、来栖に向かって微笑んでいる様に、優樹には思えた。

 しばらく優樹がキャッシー先生を訝しそうに見詰めていると、今度は彼の存在に気付いた彼女がウインクをしてきた。


 ここに至って来栖にも優樹にも、何が起こったのか理解が及んだ。


 優樹は思った。


 キャスバルさん……。


 あんた一体、何しに来たの?

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