だぶるすっ!

ふだはる

第1話 クローゼット

「いてて……あいつら、覚えてろよ……」


 優樹ゆうきは、何とか部活の仲間の悪戯で閉じ込められてしまったクローゼットの中から、脱出する事が出来た。

 しかし、抜け出した先であるクローゼットの外も真っ暗だった。

 どうやら、来栖くりすがアパートから実家への引っ越しに使っているトラックの庫内に優樹は、いるらしい。


「ん?」


 なんだか自分の声の調子が変だ? と、優樹は気が付いた。

 少し高めの声に変わってしまった様に感じる。

 優樹は喉に手を当てて、わざと咳払いをし、声の調子を戻そうと右手を動かした。


 ふよん。


 喉に右手が届く前に、右腕に触れる物があった。

 優樹は、ゆっくりと手を降ろし直すと、今度は両手を挙げて何と無く、それを鷲掴みにして揉んでみた。

 何だか少し、気持ちが良かった。


「お……っぱい?」


 何で自分の胸に豊満な、おっぱいが付いているんだ?

 いや、男の自分にも、おっぱいは元からあるけれど……流石に膨らんでは、いなかった筈だ。

 それも、こんなに大きく育っていて……。


 優樹が状況に関して悩み、原因について考えようとした時に、トラックの庫内の扉が開いた。

 扉の隙間から、まだ昼前で角度の浅い眩しい陽光が射し込んできて、優樹は思わず目を細める。


 その扉の隙間の向こう側であるトラックの車外に、人影が見えた。

 優樹と同年代くらいの女の子の様だ。


「きゃっ……!?」


 トラックの庫内に人がいる事に気が付いた少女は、小さな悲鳴をあげた。


「す、すみません! 怪しい者じゃ無いんですっ! 部活仲間の悪戯のせいで、閉じ込められちゃって……」

「……部活仲間? ……もしかして、ユウキ?」

「えっ!?」


 優樹は目を凝らして少女を見た。


 栗色の髪に碧い瞳。

 どこか面影が残っている。


「まさか……クリス?」


 その少女は、柔らく微笑むと頷いた。

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