第4話 廊下

「敵って…… 一体どういう事なんだ!?」


 事前に指定されている避難場所へと向かうクリスの後を追う様に、ユウキは廊下を走っていた。


「正体は分からない……。一年くらい前から転送の魔法を使って、この城にオーガ達による奇襲を、たびたび仕掛けてきているらしいんだ」

「どうして?」

「目的も不明さ。父さんや母さんが近衛兵達から聞いた報告だと過去に侵入したオーガ達は、何かを探している様に見えたらしいんだけど……」

「オーガ達を捕まえて、情報を引き出せたりできなかったのか?」

「それが……オーガは亜人種の中でも強力で捕まえにくい上に、何者かの特殊な術で操られているらしくって……彼等から大した情報は、得られていないんだ」


 走りながらユウキは、ある事を思い付く。


「オレ達も転送の魔法で早目に避難場所へ逃げられないのか?」

「転送の魔法は、難易度が高い。そうそう使える魔術師もいないし、何より特殊な魔法の力場りきばを持った場所で……」


 そこまで言うとクリスは、何かに思い当たったのか、急に曲がり角の前で立ち止まってしまった。

 ユウキもクリスに合わせて立ち止まる。

 クリスは振り返ってユウキを見た。


「もしかして……あのゲートが開く事と、何か関係しているのかも……」

「ゲート? オレの世界に通じている? 何かって、何が?」

「分からないけど……あの周辺が転送の魔法を使い易かったり、異世界間での時空転移が起こり易い特殊な魔法の力場を持っている場所なのかも知れない……」

「そこに敵の転送による奇襲を防ぐヒントが、あるのか?」

「それは何とも言えないけれど……でも転送の魔法を防ぐだけなら、ボクが結婚する相手の擁する魔術師達の中には、この転送の魔法を防ぐ結界を張れるエルフ達がいるらしいんだ」

「まさか、その特別なエルフの魔術師達を城に常駐させるのに必要な条件が、クリスとの政略結婚なのか?」


 ユウキの思い付きからの質問に、クリスは肯定の意味で頷いた。


 ……馬鹿げている!


 ユウキが、そう言おうとした時だった。


 突然、大きな鬼の様な怪物が、廊下の曲がり角の向こうから現れた。

 驚いた顔をしたユウキを見たクリスが、振り向いて叫ぶ。


「オーガ!? こんな奥の方にまで転送されて!?」


 オーガは、ゆっくりとクリスを確認する様に見詰めてきた。


「ミツケタ……」


 その巨躯に似合わぬ素早さで、オーガはクリスの胴体を掴むと肩に担いだ。


「こ、このぉ!? 離せぇっ!」


 クリスはオーガの肩の上で暴れるが、彼女を担ぐオーガの腕の力が、緩む事は無かった。


「クリスっ!」


 ユウキは廊下に置かれてあった大きな燭台に手を伸ばすと、まだ火の点いていない蝋燭を引き抜いて、オーガの太腿を目掛けて燭台の先端を突き刺した。

 オーガは苦悶の表情を浮かべたもののダメージを与えられた様には見えない。


 オーガはクリスを担いでいる腕とは別の……空いている、もう一方の腕で手の甲をユウキへ向けて横薙ぎに振り切った。

 オーガの拳が当たって吹っ飛ばされたユウキは、どこかの部屋の扉に当たって、それをぶち破ると、そのままの勢いで部屋の中へと転がっていった。

 ユウキは暗い部屋の中央で起き上がろうとしたが、全身に走る痛みのせいで気絶してしまう。


「ユウキっ!? ユウキっ!」


 クリスはユウキの身を案じて叫んだが、倒れたユウキが起き上がる事は、無かった。


「いやっ!? イヤだっ! ユウキっ!? この……離せっ! 離せえぇっ!」


 クリスは精一杯の力を込めてオーガの肩の上でもがいて、腕の中からの脱出を試みるが……まるでビクともしない。


 そのままクリスは、オーガによって連れ去られてしまった。

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