第8話 更衣室

 ユウキは宴が始まる前に、もう一度だけ湯浴みをして闘いで掻いた汗を流す事にした。

 

 風呂の湯に浸かると、無数の擦り傷に沁みる。

 医者からは痕が残る様な大きな傷は無いと、言われてはいた。


 クリスは宴の為に色々な準備があるらしく、先に湯浴みを済ませていた。


 ユウキが風呂から上がって身体と髪を拭いて服を着ると、廊下で控えていたメイドの一人に別室へと案内される。


 別室には沢山のエルフのメイド達がいた。

 ユウキは彼女達に、あっという間に生まれたままの姿に剥かれる。

 綺麗な補正下着に着替えさせられ、コルセットを着けられて、鏡の前に座らされた。

 後ろに立ったメイドが、髪をブラッシングしてくれる。

 前に跪いたメイドは、メイクを担当してくれる様だ。


 女性になってから初めて化粧を施したユウキの顔は、とても美しかった。


 キャスバルに美貌と言われたのも今なら納得できるかも……と、ユウキは思った。


 オレって、ナルシストの気があるのかなあ?


 ユウキは少しだけ悩んでしまった。


 ユウキはメイドの一人に立ち上がる様に優しく促され、宴用のドレスを選ぶ為の試着をする事になった。

 ユウキは良く分からなかったので、ドレスの選択をメイドに一任する。

 大きな鏡の前でユウキに様々なドレスを合わせて確かめながら、メイドは彼女に質問をしてくる。


「失礼ですが……ユウキ様は姫様と、どのような御関係だったのですか?」

「どのようって……」


 同級生で、親友で、ダブルスのペアで……。


「良きパートナーかな?」


 メイドの後ろから他のメイド達の「キャーッ!」という嬉しそうな黄色い悲鳴が、何故か聞こえてきた。

 ユウキは訳が分からずに、少しだけ引いていた。


「そうですか……。姫様の事は、お好きですか?」

「うん、嫌いじゃないよ」


 またもや後ろから喜びに満ちた悲鳴があがる。


「な、なにかな?」

「お気になさらないで下さい」


 少しだけビクビクし始めたユウキを落ち着かせる様に、試着を手伝っていたメイドが、優しい声を彼女に掛けた。

 メイドは少しだけ振り向くと、後ろのメイド達を窘める様に睨んだ。

 途端に後ろのメイド達が、きちんと背筋を伸ばして整列し静かになる。


「姫様の事を、これからも宜しく御願いしますね?」

「うん、オレに出来ることならね」


 ユウキが、そう答えると……試着を手伝っていたメイドは、嬉しそうに微笑んだ。


 赤いドレスが選ばれてユウキは、メイドに手伝って貰いながら、それを実際に身に着けていく。


「さあ、終わりました。……いかがですか?」


 メイドはユウキに顔を寄せて家族であるかの様に慈しんで微笑む。

 ユウキは鏡に映った赤いドレスを身に纏った自分の姿を素直に綺麗だと感じた。


 しかし、心は晴れなかった。


 自分が元々は、男だからだろうか?


 ユウキは何となく、それは違う……と思いつつも、自分の気分を少しだけ落ち込ませている原因が分からずにいた。

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