エピローグ

 デーシックス達は、外の世界を歩いていた。

 見渡す限り、岩と氷ばかり。このような土地では、すぐに作物を育てられそうにはない。だが、それは覚悟の上でのこと。当座をしのぐため、苦しい中やりくりしてエタノールの備蓄も揃えてきた。汚染の残留を懸念してもいたが、幸いにして不調を訴える者は誰もいない。そして何より、壁の外へ出てからエイチェスを一度として見ていない。


「デーシックスさん、ここはもうアジアなんでしょうか?それとも、アフリカでしょうか?」

 隣を歩く側近が尋ねてきた。

「さてな。ともあれ、まずは作物を育てられる環境を整えないと。そのためには、新しく壁を作る必要がある」

 難しい作業ではないだろう。壁の作り方は、


 デーシックスは、そして教会の中心にいるエスセヴンさえも、誤解をしていた。彼らの祖先は、キリサワを始めとする囚人達ではない。


 数千年前……地球からの物資供給が絶たれ大混乱に陥った人間達をよそに、施設の建設と維持のために投入された自律進化型機械は、着実に進化を重ねた。化学合成細菌共生植物から燃料であるバイオエタノールを生産する術を見出して活動を維持し、数千年の間に自我を手に入れ、宗教さえ作り上げるに至った。


 教会の教えは、間違ってはいなかったのだ。確かに彼らの祖先は、創造主によって『テロリストの隔離施設をEuropaに作ることで地球に平和をもたらす』という重要な使命を与えられ、この地に遣わされたのだ。


 デーシックス達が、キリサワをはじめとする古代文献の書き手を自分達の祖先だと勘違いしたのは、無理からぬことだった。彼らにとって、文章を記すような存在、文明を有する存在は、自分達以外にはありえなかった。全く異なる存在がそのような能力を有しているなど、想像すらできなかったのだ。


 Europaに収容されていた囚人達には、コンピューターはおろか紙を製造する技術すらなく、やがて文字を忘れ、言語を失い、野獣同然の存在となるに至っていた。

 日記の書き手であり、また、デーシックス達の祖先の創造主でもある生物、Homo sapiens……それは今、Hsエイチエスと呼ばれている。


「エイチェスのいない新天地がついに手に入る……これも、創造主のお導きかもしれないな」

 自律進化型機械AD7114-D6デーシックスは、彼らの創造主がいるのかもしれない空を見上げながら、そう呟いた。

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出ユーロパ記 人鳥暖炉 @Penguin_danro

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