丑三つ時ではなく、逢魔が時の怪異譚
- ★★★ Excellent!!!
百物語にはひとつ足りない、「怪談」と呼ぶには色合いが淡い。
此岸に留まる死者たちの情念は少し怖くて物悲しく、儚く弱い。
昭和初期の帝都を舞台に、酒飲みで怖がりの三文文士の大久保は、
学生時代からの悪友で胡散臭い新聞記者の関に引っ張り出され、
新聞掲載の怪異譚の取材のため、数々の不思議と出会っていく。
大久保の視点の柔らかな筆致によってレトロな東京が物語られる。
短編連作の形式で、情感にあふれながらも各話に深入りしない。
だからとても読みやすく、大久保と関の人間臭さが親しみやすく、
あっという間に全話を読破してしまった。すごく面白かった!
飄々として傍若無人なくせに実は一途で脆い関がかわいくて好き。
私はもともとホラーを怖がらない人間なので基準がわからないが、
怖がりの人にも読める味わいのホラーではないかと思うので、
怖い話に挑戦しようという初心者の読み手におすすめしてみたい。
関のキャラを気に入ったら、怖くても、第漆話までぜひ頑張って。
続編と番外編もあるとのこと。
今夏の楽しみにしようと思う。