連鎖の中で紡がれるたしかな愛の記憶

 いつだったか疑心暗鬼に陥っていたときに、愛というものがどこか霞のように掴めない、縁遠いもののように感じられたことがありました。

 それは愛の根底に、何かを〝信じる〟という能動的な行為が伴うからなのでしょう。

 そう確信できたのは、この作品に出会ってからのように思います。といってもただ盲目的に信じるのではなく。

 はじまりは世界に存在する動かしようのない事実。そこから遡るように推察された作者様の論理的思考と、溢れるような想像力が重なった世界で紡がれる物語。

 拝読していて、想像を刺激する余白や豊かさのあるファンタジーなんだけれども、どこか地に足ついたような、そんな心地よさがありました。

 この物語で描かれる家族愛は幻想などではないのでしょう。

 はじめに個人の幸せがあり、それから一人一人を繋ぐように、あるいは大きく包み込むように、しっかりと愛が作用している、そんな家族愛。
 
 正直に申し上げると、私は家族が重荷やしがらみでしかなかったという自覚があるほうで(戦後明治以後の負の面での典型的な家父長制の家とでもいいましょうか)、拝読しながら、こんな家族愛なら素敵だなと、自然と肩の力が抜けたといいますか、腑に落ち、ほっこりしました。

 想像のじゃまをしないすっきりした描写は映像的で、脳裏に鮮やかに浮かびます。

 随所に挟まれるオノマトペにはどこか存在感があり、イメージを掛け合わせる楽しさに、絵本や童話のような遊び心を感じることもたびたび。

 素直で、まっすぐで、あたたかい。

 そんな愛とでも呼ぶべき感覚が、現実世界での苦しみや悲しみをもそっと照らし出してくれるような、不思議な優しさのある作品。

 たとえばもし、疑心暗鬼に疲れて世界中がまやかしに見えるような時に出会ったとしても、この物語は誰かを信じる喜びを、ぬくもりとともに、そっと届けてくれるのではないかと思いました。心から、おすすめいたします✴️



 ところで、目の前にいる人を対等な一人の人間として見ることって中々出来るようで出来ないといいますか、実はかなり高度な技だと思います。
 たとえ闘いの場で出会ったとしても、必要とあらば、さっと鎧を外して得体の知れない相手にもお茶を差し出してくれるんだろうなというような、粋な優しさ。
 そんな作者様の嘘のないまっすぐな眼差しと生き抜いてきた実感が、ファンタジーの世界にもほんとうらしさを宿らせているように感じました。 
 素敵な時間をありがとうございました◎

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