チェコを舞台に繰り広げられる青年の熾烈な復讐譚

ある人にとっては創作でありファンタジー、またある人にとっては――たとえば良心の呵責を一切感じないような人に遭遇してしまった人にとっては――「あぁ、いるよねこういう人。ほんとうにいるんだよ」と度々頷きたくなるような、人間の闇に真に迫ったダークミステリーファンタジーであるかもしれません(バトルもあるよ)。

主人公はプラハ・カレル大学に通う学生ラナン・カドレック。頭脳明晰で人あたりが良く彼女とも幸せそうな彼が、一体どうして復讐をすることになるのか――?
そこにはたった一人で立ち向かうには深過ぎる人の業、この世の闇ともいえるような者たちの存在がありました。

冒頭の劇中劇をきっかけに物語が展開していくさまや、手堅くターゲットに近づきつつも確信が持てるまでは動き出さない主人公、それから復讐をすすめる中で度々葛藤に悩む姿など。復讐に燃える姿はさながらシェイクスピアの悲劇『ハムレット』を彷彿とさせます。

追い詰められた孤独な人間に出来ることと言えば、自分がそのコミュニティからいなくなるか、復讐するか――。そしてこの物語の主人公は、復讐することを選びました。

無論、現実世界でそんなことをしたら犯罪になりますから、ほぼほぼ自分が去ることになるわけですが。そうするといつまでたってもことの真実が表には出ず、またその社会の中で似たようなことが繰り返されることもあるでしょう。

もしあの時こんな人もいると知っていたら、ある程度は未然に防ぐことができたのかもしれないな……。
何の免疫もないまま遭遇してしまった後悔を僅かながら抱く私にとって、復讐劇や仇討ちの物語が存在するコミュニティというのは、むしろどこか健全に見えます。


ときにチェコでは母国語を禁止されていた時代があるそうですね(by Google先生)。
しかしそんな時代にあってもマリオネットだけはチェコ語での上映が許されていた(by Google先生)。

そんなチェコの人々にとってのマリオネットの存在を思うと、あるいは言論規制が当たり前の世の中であったなら、物語というのは人々の暮らしや文化、世に出せぬ真実が生き残る最後の砦なのかもしれないな、と思ったりしました。

映像的な筆致は読みやすく、映画のように臨場感をもってリアルタイムに脳裏に浮かびます。
復讐譚の緊張の中にあっても、時折高台から見える景色に心和ませたり、あるいはチェコビーズみたいな色のお菓子だったり、人々の何気ない日常にふと異国の香りを感じました。

何かを『伝える』ということにかけて物語というのはもしかしたらとても大きな力を秘めているのかもしれない。そう改めて感じさせてくれるような力作で、拝読出来てほんとうに良かったです。

遅ればせながら、執筆おつかれさまでした◎

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