アカデミー賞の死体賞にノミネートされた主人公。
死体賞ってなに? 死体なんて動かないだけだから、誰にでもできる?
いいえ、そんな簡単なものではありません。
このお話は演劇に魅了された主人公、立長吉幸が、役者としての道を進んでいく物語。
より良い芝居をするにはどうすればいいか。
キャラクター、世界観、場の雰囲気や揺れ動く気持ちを伝え、観る人に感動を与えるのが役者の仕事です。
死体一つとっても、役を通じて伝えられることは、山ほどあるはず。
お芝居の事をよく知らない人でも
問題なく読めて、知らないからこそ奥の深さに触れられる。
演劇の魅力と情熱を堪能できる、ヒューマンドラマです。
まず、
「死体賞とは……?」
となること間違いなしのインパクトに溢れたタイトルと設定、とても好きです(*´-`)
タイトルにもある通り、死体賞を受賞してからのお話ではなく、受賞するまでのお話です。
なので主人公の立長吉幸の学生時代から遡っていくのですが……。
子供の頃のエピソードからすでに個性的な言動をしていて、彼の成長を楽しく見守ることができます。
また、演劇の描写も魅力的です。
読んでいるだけで演者の表情まで見えてくるようで、まさしく『読む演劇』だなと感じました。
彼の生き様と演劇への愛を詰め込んだ今作。
皆様も一緒に、死体賞を受賞する彼の姿を見守ってみませんか?
物語はアカデミー賞の場面から始まります。
死体賞にノミネートされ、主人公はレッドカーペットを歩いています。そんな場面を読んで、読んだ人はみんなこう思うことでしょう。
「死体賞って、死体役俳優って……なに?」
こんな疑問に答えるべく、主人公の生い立ちが語られるのですが……
台詞なしの演劇の魅力にはまり、主人公は演劇の道をこころざすのですが、それを学ぶ過程がとても興味深かったです。
主人公はとても勉強熱心な人で、どうすればうまく演じられるかと真剣に悩みます。読んでいるわたしも主人公といっしょに悩み、彼の気づきに「なるほど」となる瞬間がたくさんあり、その気づきはとても楽しい体験でした。
わたしは演劇には不案内です。ですが、この作品を読むうちに、演じることと小説を書くことには、同じ表現者として似たところもあるのかも?と思うようになりました。
演技したり、小説を書いたり、絵を描いたり。何らかの表現活動をしている方なら、より物語を面白く感じるかもしれません。
レッドカーペットを軽妙に歩くその役者、立長吉幸。
芸歴22年になる死体役俳優である。
読者は冒頭からこんな不思議に触れるであろう。
『アカデミー賞死体賞って何やろ』
ほんとうに、謎である。
拝読しながらこんなことを思った。
『うつし世は夢、よるの夢こそまこと。そんな言葉があったな』と。
ふと思い立って調べてみたら江戸川乱歩。
なるほど、この作者さまにぴったりかもしれないと思った。
『セラの森』で美しい悲劇を描いた作者さまなら、
笑いあり涙ありの滑稽な喜劇もたしかに描けるだろうと思ったのだ。
退廃的な美しさを描ける人というのはある意味、
命尽きてなおその存在をいとおしく思っている。
そうした情愛の深さを、言葉の端々に感じた。
美しいとは突き詰めれば究極の他人事目線なのであろう。
その冷たささえ含むく客観的な眼差しで悲劇を眺めるとき、
美しさは悲劇の当事者にとっては慰めであり、夢であり、
包み込むような優しさでもあった。
本作はそんな美しい悲劇を綴った作者さまの描く、笑いあり涙ありのコメディであるという。
己の悲劇を他人事のように笑い飛ばせたらそれは立派なユーモアであり喜劇。
そんな言葉が脳裏を過るとともに、作者さまの描く新作が今から楽しみで仕方ない――。
そんな心持ちです(え?笑)。
この作品に触れていると、つい演じたくなってしまうような楽しさがあります。
安心して楽しめる。
そんな作者さまへの信頼は、
今後Web小説において読者が作品を選ぶうえで大きな基準となっていくのではないでしょうか。
連載をリアルタイムタイムで追いかけながらワイワイ楽しめるのも、カクヨムコンの魅力の一つではないかなと思います。
私も続きを拝読できるのが今から楽しみで仕方ありません。
ぜひ、あなたも一緒にどうですか?✴️
テレビや映画に誰かの死体が登場した場合、その死体を演じている役者さんのことをどう思いますか?
別にどうも思わない? そうですよね。元々重要な役だったのならともかく、ほぼ死体でのシーンしかないのなら、そこまで深く注目することもないでしょう。
ですが考えても見てください。
例えばミステリーで、例えばホラーで、最初に死体が出てきたら、そこで一気に空気が変わるのです。それまであった日常が崩れ、物語が動き始めるのです。
それを演じる役者も、ただ寝転がっていればいいというわけではありません。
いかにして死の怖さを伝えるか。驚愕の表情をすべき? それとも、何が起きたかわからないまま死んだなら、あえての無表情?
研究はつきません。
そんな役者さんの頑張りが世の中に認められたのか、なんとあのアカデミー賞でもついに死体賞が設立されたのです。
本作は、そんな栄えある賞にノミネートされた一人の俳優の、そこに至るまでの軌跡。
彼はどのようにして死体役俳優という変わった道へと進んだのか。
死体役に限らず、演劇そのものに興味がある人にもオススメです。