少年に与えられる『力』としてのロボット、その極北に

 原初、ロボットとは友であった。涙を流すことも言葉をしゃべることもなく、それでも主人公の心を映して友情と正義のために力をふるう、血潮を分かち合う兄弟であった――

 いつからだろう? 搭乗型のロボットがともすれば主人公を欺き蝕み、あるいはその血肉を食らい時に全人類を滅ぼして顧みぬ、裏切りの器である可能性をにおわせながら描かれるようになったのは。

 この作品は、ロボットがそうした不穏な存在として描かれるようになった時期に重なる潮流である、セカイ系の外観をなぞるように描かれている。発端から途中まで、その展開はあまりに不穏で悲劇の予感に満ち、痛々しい。
 少年を導くべき大人たちは保身と欺瞞に身を鎧い、或いは科学という名の狂気にとりつかれて、少年とその幼馴染のヒロインを、無残な饗宴の贄としてテーブルの上に引き据え、哄笑するモノのように描かれる。
 そんな中で少年が身を委ねさせられるロボットが、まともであろうはずなどない。現に、エルンダーグはそれ自体が少年をさいなむ拷問装置のようにおぞましく無慈悲に機能し、彼と少女を相対論的時間差の中へ引き裂いてしまうのだ――

 だが、しかしである。

 補給すらままならぬ宇宙の彼方へ彼を連れ去りながらも、エルンダーグは決して裏切らないのだ。
 少年の意思を、悲しいまでの願いを、不屈の闘志を、肉体の限界すら凌駕する執念を、そして彼が人間性を捧げて手にしたその性能に対する信頼を!!

 こんな熱いロボがあるか? あったか? 

 断言する。ない。これほどまでに血みどろで苦痛に満ち、孤独と絶望に締め上げられながらも、エルンダーグは決して止まらない。沈黙しない。斃れない。
 これほど熱く、読者の期待を上回り、天上天下に自らが最強にして絶対の存在であることを叫びとどろかせるロボットを、私はこれまで見たことも聞いたこともない……まったく、冗談じゃないよ!!

 セカイ系ではない。これはセカイの全てを敵に回してなお圧倒的な力で蹂躙し焼き尽くす系の物語だ。

 神にも悪魔にもなれる、と数多の搭乗者たちを誘い呑み込んできたスーパーロボットの系譜の中で、エルンダーグこそが、ついに現れた少年の希求の全てを叶え具現化する存在なのだと、滂沱の涙を流しながら読了した。

 喪失したもの全てを取り戻すことはかなわずとも、これは紛れもなくハッピーエンドだ。踏みぬかんばかりに操縦ペダルを操り続けた主人公の足が、再び踏むのは、二度と届かないと思われた安らぎの道を行くためのペダルだった。まさかこれほどの結末が用意されているとは。

 いまだ数多い春秋に恵まれ、無限の可能性を秘めた本作の作者が、今後も小手先の「泣ける」「感動する」といった作劇に溺れることなく、この真正面からの王道を描き続けてくれることを期待してやまない。

 素晴らしい無敵のロボットを、本当に、ありがとうございました!

 
 

 

 

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