あの季節へ、辿り着く為だけの戦いだった――!

 質量を感じる作品である。

 つまりは慣性と重力であるが、慣性という名の感性であり重力という名の獣力を以て、作者である鉄機 装撃郎 氏は、この存在感ある作品を完成させたのだと叫ばせてもらおう。

 コイツは何を言っているんだ? と思われた方もいるかもしれないが、ワタシも何を書いているんだ? と感動に戸惑いながらのレビューなので安心して欲しい。
 安心出来ないか、だが作品のクオリティは、保証させてもらう。

 話は逸れるが、氏の前作『老潜機鋼ヘルダイバー』(公募の為、現在未公開)を読了したときにも感じた力量の伸びを、今回も感じた。
 好きなことを書く、突き詰めていけば、こうもなるか、と。作品を完結させる度に、ひとつのリミッターを解除していくかのようである。読者として実に喜ばしい。同じ書き手としては実に妬ましい限りであるが(笑)

 さて、『墜奏のエルンダーグ』に戻ろう。

 我が身を化け物に変え、愛機を魔神へと変え、世界を敵と変えてまでも。
 その少年の重い想いは、揺らぐことなく愛する幼馴染みを救うという芯より動かされることはない。強い想いは慣性を得てフルスロットルのまま未来――結末まで辿り着く。
 この質量である。

 あまりにシリアス。
 あまりにグロテスク。
 あまりに稚拙なまでの、されど純度の高い少年の幼い恋心を、この暴力的なまでの加速度を、カタルシスと呼ばずに何と形容しようか。

 広大な絶望の闇の中で、小さな希望の光は確かに輝く。
 刻は巡り、季節は巡り、フユの元にはハルがくる。

 If winter comes, can spring be far behind?――冬、来たりなば、春、遠からじ。

 墜奏のエルンダーグ――それは、あの季節へ、辿り着く為だけの戦いである。

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