第二部 英雄集結、百花繚乱! 

第4話 銘酒を盗む 予告編【vs冥帝シュランケン】

※今回のお話は拾捨様の作品「冥帝シュランケン」とのコラボとなります

※こちらの「冥帝シュランケン」も合わせてお楽しみください

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882036702


【予告状】

 冥帝シュランケン 様


 第三次ネオトーキョー事変から半月経ちました。ヒーロー業界は何かと騒がしく、我々のような無頼には生きづらい昨今、いかがお過ごしでしょうか?

 お久しぶりです。“異能怪盗ショータイム”です。この度ご連絡差し上げましたのは、貴方様が持つとあるお宝に我々が興味を示したからです。

 とは言っても瓢箪の方ではありません。そう、貴方が龍神から受け取ったというお酒です。貴方の力の源ともなっているあのお酒。一度で良いからこれを口にしてみたいのです。なにせ我々、美味しいお酒は大好きなものですから。

 我々は輝くものなら星さえ盗む怪盗です。人間のプリミティブな衝動に準じて生きる最低最悪の連中でございます。急な話で迷惑とは存じておりますので、どうぞ遠慮なく返り討ちになさってください。


 異能怪盗 ショータイム一号


 *****


 この世の何処かに有る怪盗事務所ジャンクガレージ。

 そこでは今日もそれぞれの事情を抱えた依頼人達が、それぞれの事情を携えて、異能怪盗ショータイムに盗みを依頼する。

 今日の依頼人は――――


「ミズ・スイル、予告状はこんな感じでどうだろうか?」

「ええ、よろしくお願いいたします」

「ではこちらの契約書にサインをしてくださるかな?」

「はい、分かりました。これで……良いでしょうか」


 その日、怪盗事務所ジャンクガレージを訪れたのはおっとりとした雰囲気の緑髪の美女だった。中華風の出で立ちと言い、頭に生えた角と言い、どことなく龍を思わせる風貌だ。

 スイルと名乗った彼女はは革張りのソファーに腰掛けてさらさらと契約書にサインを書き込む。


「ええ、貴方は僕達にクー・マムクートの失われた記憶について語り、それと引き換えに僕達は冥帝シュランケンの持つ瓢箪“朱天怒雷芭しゅてんどらいば”の中に入っている酒を盗む。いやはや……二度もアレを狙うことになるとはね」


 緑髪の美女はふわりと笑って頷く。


「ええ、よろしくお願いします。一度は盗みかけた物。貴方ほどの腕前なら容易いことでしょう?」

「ええ、美人の頼みとあらば星さえ盗んでみせましょう」


 そう言ってショータイム一号は笑みを見せる。

 目元を隠す白い仮面、同じくらい白いワイシャツ、赤いシルクのネクタイ、オースチンリードでオーダーメイドされたスリーピーススーツ。

 古典的な怪盗としての装いがその笑みを一層大胆不敵な物に見せていた。


「それでは前払いの報酬からお聞かせしましょうか」

「ええ、是非とも。クーが何者なのか。貴方とはどういう関係なのか。ゆっくり話してもらうとしましょう」

「勿論です。彼女は私にとって家族のようなものなのですから。でも、全ては話せませんよ? 全ての真相は依頼が終わってから、良いですね?」

「勿論」

「ふふ、楽しみ。もしも無事に盗み出せたなら、そのお酒で一席設けましょう?」

「そいつは楽しみだ。シュランケンには悪いが、今回は全力で行かせてもらおう」

「ええ、そうですね。そうでなくては困ります」


 そう言ってスイルはにこりと微笑んだ。


 *****


 こうしてスイルがクーの過去について話し、事務所から立ち去った後、ショーとクーの二人は早速会議を始めることにした。

 今日のクーはだらしない花がらのパジャマ姿である。午前は苦手なのだ。


「それにしても信じられないわね」


 クーは細口のポットからドリッパーにお湯を注ぎ、円錐状に広げられたペーパーフィルターをゆっくりと濡らす。


「何が?」

「記憶を失う前の私が彼女と同じ龍の一族で育てられた子供だなんて」


 彼女はそう言ってドリッパーの中にコーヒー粉を入れる。あらびきにした粉をたっぷりと。

 浅いローストで仕上げられた豆を粗く挽いて多めにお湯を使う。いわゆるアメリカンコーヒーだ。


「不思議なことかい? 信用できる相手ではあるよ、僕の父からの紹介なんだからね」

「私の記憶の始まりは南米に有った新人類ニュータント研究所よ。いっそ遺伝子の改変によって人工的に生み出された新人類ニュータントと言われた方が納得できるわよ」

「貴重なサンプルとして捕まっていた可能性は?」


 サーバーに溜まった先程のお湯を流しに捨てると、彼女は螺旋を描くようにしてドリッパーの中へとお湯を注いでいく。

 満遍なく豆をお湯で蒸らし、お湯を含んで膨らんだ豆から光沢が失われるまでじっと待つ。


「それは……無いとは言わないけど。でもあのスイルって人が言うことが正しいのならば、新人類ニュータントって本来もっと古くから居たのかしら?」

「居たんじゃないかな」

「さらっと言うのね……」

「……というか、さ」

「なに?」

「少ないけど確実に居たよ」

「へえ……居たの?」


 光沢が無くなったと同時に、クーはお湯を注ぐ。再び螺旋状に満遍なく注ぐ。

 ショーが社会的に死んだこととなり、彼が昼間の仕事をやめてからは、こうして二人でコーヒーを飲むのが日課だった。


「君はモルバニアで出会った執事の事を覚えていないかい?」

「ああ、あの」

「そうだ。君が年若き王子の心を盗んでしまったあの一件」

「あの時の執事がそうなの?」

「時の権力者の多くは自らが新人類ニュータント、あるいは新人類ニュータントの従者を侍らせていた」

「なにそれ。じゃあ実質この世界は……」

新人類ニュータントの支配下に在るかもねえ?」


 クーはドリッパーの中の黒光りするお湯が全て落ちきる前に、ドリッパーを取り外して流しに置く。

 全てのお湯をドリップさせてしまうと、コーヒーの味にえぐみが出てしまうからだ。


「皮肉ね。あのテロリスト“根源人種ルート・レース”の理想はある意味実現されているって訳」


 ショーはその質問には答えず肩をすくめてみせるばかりだ。


「歴史は何時だって僕達に一抹の真実を示唆してくれる」

「どういうこと?」

「君の過去にまつわる話だよ」

「私と歴史に何か関係あるの?」

「君のその龍の姿は東洋の龍に近いものだ。そしてそれに良く似たものが描かれた絵画や伝承といった文化的遺産を辿っていくと面白いことが分かった」

「面白い……こと」

「あのスイルという女性が拠点にしていると言う中国のネオシセンという地域と、出身であると話した日本のキシューと呼ばれる地域。そしてその間を結ぶ交易路に酒色を好み雷雨を操る龍の民間伝承がしばしば見られる」

「どうやって調べたの?」


 クーは自分とショーのカップにコーヒーを注ぐ。

 薄めのコーヒーは透けてカップの底まで見えそうだ。

 しかし、それは単純に薄いのではなくさっぱりとして飲みやすく軽やかな酸味が特徴のコーヒーとして完成している。

 舞い上がる香りも鼻腔を刺激し、昼下がりの微睡む脳内を程よく刺激してくれる。


「足だよ。実際に現地まで足を運んで調べたんだ」

「何時の間に……」

「このジャンクガレージを移動させたのさ」

「移動基地なのここ!?」


 ショーはコーヒーを飲んでからにやりと笑う。


「秘密だぜ」


 クーはため息をつく。


「……でも、シュランケンとは一度共闘しているのよ?」

「そうだね」

「本当に盗みに入るのね?」

「勿論。僕達怪盗だよ?」


 相棒の稚気に満ちた言葉にクーはもう一度ため息を吐き、ショーの隣に座る。


「本当に悪い子なんだから」

「大丈夫。カタギの皆様には迷惑かけないよ。それに君も興味があるだろう? 竜神の酒」

「ふふっ、まあね。知らない過去もいいけど、今貴方と飲むお酒の方が楽しみですもの」

「本当に?」

「本当よ。私は私が何者であったとしても構いはしないわ。それにシュランケンとはもう一度戦ってみたいと思っていたの」

「やはりか、あれほどの腕の持ち主。正調の拳士ではない君でも心が踊ってしまうんだね」

「そうね……ところで」

「なんだい?」

「ショーは自分の過去が気になる人?」

「僕も僕自身の過去にはさして興味は無い。無くなってしまった」

「なのに私のことは気になるの?」


 クスクスと笑うクー。

 誘うように、悪戯に微笑んでいる。


「そうさ。君と違って――」


 二人は一瞬だけ視線を交わす。


「――僕は、君をもっと知りたいんだ」


 ショーは一息にコーヒーを飲み干し他かと思うと、クーの肩を抱き寄せた。

 クーはショーを絡め取るように彼の背中に手を回し、妖しげに瞳を輝かせた。

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