多くの人の心に届いて欲しい切実な物語

読了後の高ぶりがいつまでもおさまらず、感情的なレビューになってしまうことをお許しください。
これほどまでに琴線に触れる物語に出会えたことを、心から幸福に思います。そしてこの物語を生み出した作者様を、心の底から尊敬いたします。

大きな苦悩を抱える主人公純くんの、声に出せない心の叫びが切実で、序盤からずっと、込み上げてくるものを飲み込むことができず苦しかったです。
この苦しさも、胸に突き刺さる強烈な痛みも、この世界に現実として確実に存在している痛み。もしかしたら、知らないうちに自分が誰かに与えてしまっているかもしれない痛み。
そう思うと、辛くても目をそらすことができませんでした。

だけど、ただ苦しいだけじゃないところが、この物語の素敵なところなのです。
各所に散りばめられたユーモアが、読み手の緊張を和らげてくれます。
ケイトさんが語るシンプルな言葉は、純くんを通り越してどんな悩みにも直撃しそうなほど、スケールの大きな愛に満ちています。
そんな風に、壮絶な物語の根底に、莫大なあたたかいものが宿っている気配を感じるのです。

頑張っても普通に生きることができないもどかしさ、もがくほどに深刻さを増す生きづらさ、そこから生まれるどうすることもできない自己否定感。
純くんが抱える苦悩に共感するのは、きっと私だけではないはずです。
年齢も性別も関係なく、現代を生きる人の心を揺さぶり、抱きしめ、背中を押してくれるような力強い優しさが、この物語には溢れているのです。

題材に関心があるなしに関わらず、ひとりでも多くの人に読んでいただきたい。
この物語が世界中に響き渡れば、世に蔓延る痛みは確実に減らすことができる!人間の心が動けば世界も変わる!!と、物語が生み出す可能性を信じずにはいられなくなる、素晴らしい作品です。

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