AIが支配する世の中で、生き残るすべを求めて模索する天才たちの軌跡
- ★★★ Excellent!!!
この作品に関してはたくさんのレビューでその魅力が語り尽くされていますが、それでも蛇足ながら書かずにはいられない。読後そんな衝動に駆られてしまう壮大なSF巨編です。
想像して頂きたい。もし街の中で自分のすれ違った人たちがみんな精巧に作られたホログラムであったら? 実在しないものばかりの世界でただ仮想空間にのみ生きるのが日常の暮らしであるとしたら? そこにゾクリとした冷たいものを感じるのは私だけではないでしょう。
この物語の舞台はAIを生んだはずの人間がAIによって支配される近未来。ホログラムや仮想空間が現実として常にそこにある世界です。
自分を取り巻く環境に違和感を覚えた天才少年少女たちは、人間に訪れるであろう未来を案じ、それぞれの頭脳を持ち寄ってシステムの謎に取り組むのですが──。
ともかく計算し尽くされた構想と綿密でリアルなディテールに舌を巻きます。あたかもこんな世界が本当に存在するかのよう。がっしりと築かれたシステム世界の隙のなさ。物語を創造するとはこういうものだ、と見せつけられます。
違う視点で語られる前編と後編でリンクする場面の数々は鳥肌もの。そして終盤にかけての怒涛の展開はただただ圧巻。読み応えしかありません。
しかし同時に、登場する人物たちの血の通った会話やたくさんのコミカルな場面がふんだんに用意され、サービス精神がたっぷりです。まさにSFとヒューマンドラマが融合されたエンターテイメント。
神の領域、人類の領域。人間はどこへ向かうのか。未来への警鐘、そして人間への希望を感じさせてくれる、圧倒的な熱量を放つ作品です。