時と霧の軌跡

叶良辰

プロローグ

2062年から来た未来人のメッセージ

 書き込むのはここで良かっただろうか、先輩方。


 2020年は大変な出来事が発生した年だと過去に学んだが、実際の生活がこれほどまでに変わるものとは思っておらず、私も驚いている。どうか元気を出してほしい。危機を乗り越えた先には輝かしい未来があるのだから。


 さて、先輩方は『シンギュラリティ』という言葉をご存知だろうか? 小難しい説明は省略するが、「AI人工知能が人間を超える転換点」のことを指す。つまり先輩方にとっては未来の事象だが、私にとっては遠い過去(生まれて間もない頃だ)の話である。実はこの『シンギュラリティ』に関して、ここ2020年の時代におけるAIの専門家の方に、私の知る過去(つまり彼やあなた方にとっての未来)の出来事を交えながら説明する機会があった。なぜ私がそんな事をしたのかについては残念ながら明かすことができない。申し訳ない。ただその時、私は非常に興味深い体験をした。


 私が彼に示したのは、私が記憶している2020年代から2062年までの歴史上の主な出来事についてだ。もちろん私が未来から来た、という話は伏せ、あくまで『可能性』として解説したのだが、その専門家からの返事は以下のものだった。


「そんな未来が来るはずがない! 世界がそんなに急激に変化するわけがないじゃないか! 仮にもし予定通りにシンギュラリティに到達したとしても、その成果が社会に反映されるのはもっと先の話で、少なくともさらに50年はかかるはずだ!」



 そのメッセージを見た私は、思わず口にしてしまった。



「なるほど」



 確かにそうだ。この時代にはこの時代の常識、この時代のスピード感があるのだ。シンギュラリティ技術的特異点に到達することがその後の世界にどういった変革をもたらすのか、過去の事実として学んだ私としては当たり前の歴史が、こちらではまるで絵空事のように思われる、それはこの2020年の時代を生きる人(例え専門家であっても)にとって当然の事であり、当然の反応なのだ。


 以上の事は今回、私があらためて気付いた観点だが、先輩方にも知っておいていただきたい事がある。一つ目は私がこれまで何度か伝えてきた事だ。あなた方の歩んでいる道は間違ってはいない。混沌の時代はこれからしばらく続くが、この国に生まれ、この国の教育を受けてこられたことを感謝する日がそのうち来る。


 そして二つ目は、その混沌の時代を生き抜くため、明確な自らの意志を持ってほしいということ。いずれこの時代の常識はくつがえされる。その時に絶望しないためにも、そしてその後『人間』として生きるためにも、強い意志の力が必要となる。


 それを裏付ける根拠として、この先の話を紹介しよう。事前に言っておくが、これはあくまでフィクションである。(今回の調査でその裏付けが取れたため、回収はしないでおく)。ここでは国を人工知能が運営する事で人間が働く必要がなくなり、通貨(お金)さえも不用になった社会が描かれているが、この世界観がイメージできればきっと、私の言わんとすることが理解できるはずだ。


 それではまた。次回お会いできる日を楽しみにしている。

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