ありのままが詰め込まれた、儚くも尊い青春の物語。

自分にとってとても大切な人がいて、その人は自分以外の誰かが好きで、しかもそのことで自己認識の危機に陥るほど悩んでいたとしたら・・・
自分のことを好きでいてくれるから好きになったんじゃない。
その幸せを願い、自分にできることをしてあげられないのであれば、それは相手を大切に想う気持ちの純粋さへの裏切りではないのか。
自分だけに打ち明け、自分だけを頼ってくれる・・・それに対して精一杯応えることができているというのは誇りであり、矜持であり・・・
実際には、読者に知らされる分の何百倍もの葛藤があったのではないかと想像すると、否応なく胸が締め付けられます。
「現実離れした善人がいる」などとは露ほども思いませんでした。
くっついたり離れたりを目の当たりにし、恋愛に打算が交じり、所詮は椅子取りゲームと諦観に至った大人とは違い、この年代の「好き」はときに自己を犠牲にするほどの価値を持つものなのだと思います。
それぞれの思いは重ならず、ままならず、それでも勇気を振り絞って踏み出した一歩はとても小さく、心苦しさすら感じますが、それでもそこに希望を見出し未来につなげようとする懸命さに、涙が止まりませんでした。
青春時代の情緒を筆に乗せるのは非常に難しく、少しでも表現を凝ろうとすると大人視点の造り物っぽさが出てしまいがちですが、流麗な言葉運びでその繊細さを見事に表現なさっている作者様の技巧は凄まじくすらあります。
決して甘いクリームに塗れたおとぎ話ではない、ありのままの青春が深く胸に響くこの物語は、心を育てる養分として多くの人にお薦めしたい素晴らしい文芸作品です!

その他のおすすめレビュー

やどっくさんの他のおすすめレビュー38