機械的にみて、正しい。幸せ。
世間一般的にみて、おかしい。不幸だ。
そう線を引いてしまうことは思うよりも容易く、ゆくゆくは自らを抑止するしがらみと成り果ててしまう恐れがあります。
けれど純粋で尊い想いには、普通も間違いも元より存在しないのではないでしょうか。
どんなに困難な壁が立ちはだかろうとも、諦めさえしなければ、可能性は確かにそこにある。そんな大事なメッセージを、やるせない心の葛藤を乗り越えた主人公・楪の生き様が、読者である私たちへと魅せつけてくれたように感じました。
とはいえ独りで進むには心許ない道のりであり、楪のように事あるごとに言いようのない不安に見舞われ、道半ば挫けてしまうこともあるかもしれません。
それでも、心から好きになれる相手や、いつも見守ってくれる人……そして少し口うるさいけど頼りになる、『親友』と出会えたならば。
きっと、何でもできます。青春を謳歌することも、逆境を覆すことも……それに何より、想いを成就することさえも。
人の成長に、出会いはつきものです。
皆さんもまずは手始めに、この物語と出会ってみてはいかがでしょうか。
高3の楪(ゆずりは)は、同じ部の後輩・灯香が好き。
しかし、スマホに宿ったAI・秘書子ちゃんは、
「男子を好きになったほうが幸せになれる!」と
あの手この手でおススメしてくる。
放送研究部が文化祭に向けて映画を製作したり、
当日のラジオ公開放送を企画したりする様子は、
全く知らない世界を見られて面白いです。
ちょっと余計なお世話な面もある秘書子ちゃんとの
やりとりは軽妙で、笑えるのですが。
映画製作が順調に進まないことにテンパったり。
自分の恋が「普通」ではないことに思い悩んだり。
話が進むにつれて、だんだん読む手が止められなくなります。
そして、迎えた文化祭当日。
素晴らしい作品でした。泣ける。
読んで良かった。
きっと、高校生の恋愛って、当時は無我夢中で、悩んでみっともなくもがきながら、時々立ち止まって背を背けてみて、でもやっぱり諦めきれなくて足掻くという、全力で不器用なことをするものだと思うんです。今思い返せば、それはすごく甘酸っぱい思い出になるんです。
楪ちゃんの恋愛も、そんな甘酸っぱさのある高校生の恋愛です。
だけど相手が同性なので、異性との恋愛の時よりもどうしても不安や恐怖が多くなってしまう。それがすごく切ないです。
そんな楪ちゃんを支える秘書子ちゃんや、青葉くん。このふたりとの関係性も少しの切なさを伴っていてとても心地よかったです。
フラウズメンバーの掛け合いがお気に入りです。
同性ものだから……と読むのをためらう方にこそ、個人的には、読んでいただけたらなぁ、と思います。
迷われてる方はぜひ!
自分にとってとても大切な人がいて、その人は自分以外の誰かが好きで、しかもそのことで自己認識の危機に陥るほど悩んでいたとしたら・・・
自分のことを好きでいてくれるから好きになったんじゃない。
その幸せを願い、自分にできることをしてあげられないのであれば、それは相手を大切に想う気持ちの純粋さへの裏切りではないのか。
自分だけに打ち明け、自分だけを頼ってくれる・・・それに対して精一杯応えることができているというのは誇りであり、矜持であり・・・
実際には、読者に知らされる分の何百倍もの葛藤があったのではないかと想像すると、否応なく胸が締め付けられます。
「現実離れした善人がいる」などとは露ほども思いませんでした。
くっついたり離れたりを目の当たりにし、恋愛に打算が交じり、所詮は椅子取りゲームと諦観に至った大人とは違い、この年代の「好き」はときに自己を犠牲にするほどの価値を持つものなのだと思います。
それぞれの思いは重ならず、ままならず、それでも勇気を振り絞って踏み出した一歩はとても小さく、心苦しさすら感じますが、それでもそこに希望を見出し未来につなげようとする懸命さに、涙が止まりませんでした。
青春時代の情緒を筆に乗せるのは非常に難しく、少しでも表現を凝ろうとすると大人視点の造り物っぽさが出てしまいがちですが、流麗な言葉運びでその繊細さを見事に表現なさっている作者様の技巧は凄まじくすらあります。
決して甘いクリームに塗れたおとぎ話ではない、ありのままの青春が深く胸に響くこの物語は、心を育てる養分として多くの人にお薦めしたい素晴らしい文芸作品です!
登場人物が、みんないいやつばかり。そう、携帯電話でさえも。
皆が皆かけがえなく、そして文化祭に向けて動く様が輝いていて、決して忘れ得ぬ思い出となるのだろう。
そんな様子が、軽快で気の利いた会話シーンから察せられます。
青春の光に照らされて、少女の多少異質な恋は、影を落とします。
しかし、誰もが認め合い、決して否定することなく、見守り支えながら進むストーリーは、読者の胸を打つことでしょう。
その恋心は、成就すべきか?
少なくとも、その真摯な心は報われるべきだと、私は思います。
完成度が高く、安心してさくさく読み進められました。良作、ありがとうございます。
人を好きになることって、素晴らしいことなんですよ。
この作品は、そんな当たり前のことを、改めて教えてくれました。
主人公の楪は、どこにでもいるような普通の女の子。
ただし、恋愛対象が同性だということ以外は……。
女の子が好きということに悩む日々。
そんなとき、スマホの秘書アプリに人工知能が入ってしまい、秘書子が誕生します。
秘書子は男の子を好きになった方が幸せだと主張するも、楪の気持ちは変わらず……。
こんな感じで、完成度の高い恋愛小説となっておりますが、それだけではありません。
実はこの作品、本格的な青春ものでもあるのです。
放送研究部としての活動を通して、楪の恋愛のアレコレが書かれるわけです。
その部活の様子のリアリティといったらもう!
フラウズでのみんなの掛け合い、最高です。
生で聴いてみたい。
アオ先輩、大好きです!
というわけで、ハッとしてキュンをベースとしながらも、ときどき醸し出されるほろ苦さと、全力で青春する彼女たちの眩しさの絶妙なマッチングが最高なこの作品、ぜひ読んでみてください!
高校の頃、文化祭ってめっちゃ青春だったものね。
そして すきな人のことばかり 目で追ってしまうの。
部活の先輩の髪をかき上げる仕草一つに きゃあきゃあ言ったり。
今思うと、別につき合ってるわけじゃなくても
学校に行けば すきな人に会えるって、しあわせなことだったなぁ。
でも、片思いは 何も学生の特権じゃないんだな。
大人になっても 届かない想いはあって
だからね、遠くなっても こうして想いを馳せることができる。
きっと心は自由に飛ばせるから、幾つになっても 感情移入できる。
青葉ファンの私にとって、SceneXXは宝物。
いつか 彼のその後のお話、スピンオフで書いてほしいなぁ。
楪の 心の葛藤が せつなくて 仕方なかった。
秘書子との AIを超えた友情が ほほえましかった。
すてきなお話を書いてくれて、届けてくれて ありがとう。