そこは蛤の夢のような僕が、焦点を結べた場所だった。

 田舎の海が嫌いな男子高校生の主人公は、無味乾燥な毎日を過ごしていた。だから、来たくもない海くらいしか、居場所が見つからない。
 蜃気楼が現れたその日、主人公はいつもの海辺で、カフェを開くという一人の女性と出会う。女性もまた、居場所がないらしいのだが、のらりくらりと詳しいことははぐらかされてしまう。そして主人公は半ば強引に、女性が経営するカフェのアルバイトとして働くことになる。
 しかし、その海辺のカフェにやってくるのは、夜を住処にしている妖たちだけだった。様々な妖たちを接客する主人公は、女性にある質問をする。

 とても読みやすい文章で、それでも主人公が抱える鬱屈した感情や、女性の不思議なたたずまいが、手に取るように分かる。
 しかも冒頭に石燕の抜粋を持ってくるという、知識の豊富さが垣間見える。
 素晴らしい書き手だと思う。

 是非、御一読下さい!

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