クレタ島で眠っていた「鍵」を巡り、極寒の雪原が血の赤に染まる
- ★★★ Excellent!!!
ヒュペルボレイオスとは、ギリシャ神話に登場する民族の名だ。
彼らは極北にある常春の理想郷に住み、太陽神アポロンを崇拝し、
その地の入口を「絶壁に宿る生命」によって守っているという。
本作はその謎の民族とオーパーツ、大国の軍事的野心を巡るSFだ。
主人公である考古学者のヴァレリーはクレタ島の遺跡から、
そこにあってはならない時代錯誤の遺物を見付けてしまう。
これによりロシアを追われた彼はアメリカへの亡命を決めるが、
アラスカ上空を移動中、ヘリがエンジントラブルで墜落する。
凍死しかけた彼を拾ったのは、イヌイットの混血少女ヤコネ。
曽祖父と2匹の愛犬と共に極寒の大自然で生きる逞しい彼女に、
都会暮らしに慣れ切ったヴァレリーは驚かされたり圧倒されたり。
丹念に描かれる狩猟民族の生活には、読者も引き込まれるだろう。
中盤からは一転し、武装した特殊部隊がオーパーツを巡って、
無力なヴァレリーの頭上越しに血みどろの戦闘を繰り広げる。
巻き込まれたヤコネは、狂気的な軍人アーロンに銃を向けられ、
一介の中年男に過ぎないヴァレリーには打つ手もなく――。
基礎知識や周辺知識がなくても、とにかく、物凄く楽しめた。
ギリシャ神話に詳しいとか、米ロの特殊部隊にそそられるとか、
イヌイットに興味があるとか、オーパーツには目がないとか、
もともとの関心が強ければ、よりマニアックに楽しめるだろう。
内容が本格派であると同時に文章そのものも読みやすく、
著者の作品なら安心して読めるのではないかと期待する。
ほかにも長編作品を多数公開されているようなので、
折を見て読んでみたいと思った。おもしろかったです。