アラスカに生きる少女と、ありうべからざる遺物と

ふぁー、面白かった。

本作は、重大な秘密を握ったまま北辺に遭難した考古学者と、それを救ったイヌピアックの少女との交流を描く作品だ。考古学者の抱いていた秘密のアイテムの使い道は、本作後半に明らかになっていく。

本作ではまず、アラスカの広漠とした大地の描写と、イヌピアックの少女の伝統的な部分を多く保つ生活の描写とが、大変丹念に描かれる。

これが本当に面白くて面白くて、もちろん良い意味で、私は一体なんの小説を読んでいたんだろう? 確かSFジャンルの小説を読んでいたはずなのに……! と思うほどに没頭してしまった。もちろん、作品後半には怒涛のSF的な展開が待っている。そして、前半のアラスカの大地とそこに住む人々の描写は、しっかり後半への仕込みとして用意されたものとわかる。

現代では、先住民族とはいっても、完全に伝統的な生活だけで生きていけるわけではない。イヌピアックの少女も、貨幣を得て買い物をするし、伝統的な生活と都市での生活との間で逡巡する姿を見せる。そうしたところに、考古学を専攻した主人公が現れ、少女の心を動かしていく。

二人が街で買い物をするシーンがある。もっとも印象に残ったシーンだ。少女を含めた先住民族が現代でどう生活しているのか。二人の関係の深まりのなかで、しっかりと語られる。ここにグッと来た。

後半の怒涛のSF活劇もまた大変読み応えがある。一方、この少女はアラスカ社会でどう生きていくんだろう? という気持ちも湧いてくる。それで、こうした人間のあり方、生き方を考えるのは、社会科学(social science)の範疇に属するだろう。社会科学だってscienceだ。

この小説はそういう意味でもSFなんだと感じる。

ぜひご一読し、アラスカの世界とそこに住む人々にに想いを馳せてはいかがだろうか。

その他のおすすめレビュー

小川茂三郎さんの他のおすすめレビュー26