敵、味方ともにキャラクターが良く書けている。悪役の憎たらしさとエキセントリックさはなかなかのもの。
しかし、全体的な分量の問題をいうと、ちょっと物語前半の分量が多すぎ、逆に、後半は少なすぎる。特に、遺跡に到達して鍵の正体が判明してから、決着がつくまでが早すぎる。あと一転くらいはしてほしい。なにより、肝心のSF要素である巨人がほとんどなんの活躍も見せずに話が終わってしまうのが残念。
第五章の「PMC部隊とCIAの工作部隊、またそのどちらにも属さないヒュペルボレイオス達とが、三つ巴の攻防戦を繰り広げていたらしい」という部分は、主人公の推測で終わるのではなくて、ちゃんと書いてほしかったところ。
全体的に見て、文章力や描写力は十分と思いますが、構成力は改善の余地があると思います。
ヒュペルボレイオスとは、ギリシャ神話に登場する民族の名だ。
彼らは極北にある常春の理想郷に住み、太陽神アポロンを崇拝し、
その地の入口を「絶壁に宿る生命」によって守っているという。
本作はその謎の民族とオーパーツ、大国の軍事的野心を巡るSFだ。
主人公である考古学者のヴァレリーはクレタ島の遺跡から、
そこにあってはならない時代錯誤の遺物を見付けてしまう。
これによりロシアを追われた彼はアメリカへの亡命を決めるが、
アラスカ上空を移動中、ヘリがエンジントラブルで墜落する。
凍死しかけた彼を拾ったのは、イヌイットの混血少女ヤコネ。
曽祖父と2匹の愛犬と共に極寒の大自然で生きる逞しい彼女に、
都会暮らしに慣れ切ったヴァレリーは驚かされたり圧倒されたり。
丹念に描かれる狩猟民族の生活には、読者も引き込まれるだろう。
中盤からは一転し、武装した特殊部隊がオーパーツを巡って、
無力なヴァレリーの頭上越しに血みどろの戦闘を繰り広げる。
巻き込まれたヤコネは、狂気的な軍人アーロンに銃を向けられ、
一介の中年男に過ぎないヴァレリーには打つ手もなく――。
基礎知識や周辺知識がなくても、とにかく、物凄く楽しめた。
ギリシャ神話に詳しいとか、米ロの特殊部隊にそそられるとか、
イヌイットに興味があるとか、オーパーツには目がないとか、
もともとの関心が強ければ、よりマニアックに楽しめるだろう。
内容が本格派であると同時に文章そのものも読みやすく、
著者の作品なら安心して読めるのではないかと期待する。
ほかにも長編作品を多数公開されているようなので、
折を見て読んでみたいと思った。おもしろかったです。
ロシアから米国へ亡命中、乗っていたヘリがアラスカで墜落。
考古学者ヴァシリーを助けたのは、ぶっきらぼうな物言いの少女だった。
発掘中に見つけたある物のために、追われる身となったヴァシリー。
助けてくれた少女ヤコネが、とにかく魅力的です。
カタコト英語での会話は、命令口調。
誇り高い狩人で、ライフルは凄い腕前。
狩った獲物をその場で捌き、ワイルドな食材を「食え」と勧めてくれます。
彼女たちイヌピアット族にとっては、恐らくご馳走なんでしょう。
何度も吐きつつ、毎回受け取ってチャレンジするヴァシリー。
アラスカに生きる者の生の暮らしぶりを目の前で見ているかのような描写に、すっかり惹きこまれてしまい、後半で「そういや、ジャンルはSFだった」と思い出すほど。
ヴァシリーが見つけた物は何なのか?
ヒュペルボレイオスとは?
後半の、全ての謎が解けていくSF展開は、最後まで息つく暇もありません。
取り残された彼は、このあとどうなるんでしょうね?
めちゃくちゃ面白かったです。
ふぁー、面白かった。
本作は、重大な秘密を握ったまま北辺に遭難した考古学者と、それを救ったイヌピアックの少女との交流を描く作品だ。考古学者の抱いていた秘密のアイテムの使い道は、本作後半に明らかになっていく。
本作ではまず、アラスカの広漠とした大地の描写と、イヌピアックの少女の伝統的な部分を多く保つ生活の描写とが、大変丹念に描かれる。
これが本当に面白くて面白くて、もちろん良い意味で、私は一体なんの小説を読んでいたんだろう? 確かSFジャンルの小説を読んでいたはずなのに……! と思うほどに没頭してしまった。もちろん、作品後半には怒涛のSF的な展開が待っている。そして、前半のアラスカの大地とそこに住む人々の描写は、しっかり後半への仕込みとして用意されたものとわかる。
現代では、先住民族とはいっても、完全に伝統的な生活だけで生きていけるわけではない。イヌピアックの少女も、貨幣を得て買い物をするし、伝統的な生活と都市での生活との間で逡巡する姿を見せる。そうしたところに、考古学を専攻した主人公が現れ、少女の心を動かしていく。
二人が街で買い物をするシーンがある。もっとも印象に残ったシーンだ。少女を含めた先住民族が現代でどう生活しているのか。二人の関係の深まりのなかで、しっかりと語られる。ここにグッと来た。
後半の怒涛のSF活劇もまた大変読み応えがある。一方、この少女はアラスカ社会でどう生きていくんだろう? という気持ちも湧いてくる。それで、こうした人間のあり方、生き方を考えるのは、社会科学(social science)の範疇に属するだろう。社会科学だってscienceだ。
この小説はそういう意味でもSFなんだと感じる。
ぜひご一読し、アラスカの世界とそこに住む人々にに想いを馳せてはいかがだろうか。