サウナが宇宙にあるんだぞ。それは素晴らしいことだ。

ジャレド・メーソン・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』。あるいは網野善彦の『無縁・公界・楽』。これら単語を三つ連ねる作品は、一見すると非連続な三つの単語が、実際密接に連続し人間社会がいかなるありさまであるかを語っている。
本作『サウナ・水風呂・流れ星』もまたこの例に漏れない。

良い作品に出合った時は、すぐに感想・レビューを書きたくなる。けれどこの小説を読んで真っ先に行なったことは、席を立って近所の銭湯に行くことだった。サウナ上がりにこれを今書いている。この作品は、こうした衝動を与え得る。

本作はサウナ大好き人間の主人公が、ある理由で宇宙にサウナ施設と共に放り出されたところから始まる。絶望的な状態だが、サウナ大好き人間にはなにやら精神的な余裕がある。サウナと密接不可分な設備、水風呂を求めて、物語が動いていく。

本作の魅力の第一は、サウナ(および周辺施設)と宇宙との親和性を上手く導き出しているところだ。宇宙でサウナ。サウナが宇宙にある! 静謐で美しい風景が描かれる。ここが見ていて本当に気持ちがいい。確かに、はるかな未来、宇宙にあるサウナにこのような楽しみを見出す人々がいるのではないかと思わせる描写が良い。あと水風呂。理想的な宇宙水風呂が描かれている。そして、休憩場所! ここ大事。休憩場所が宇宙にある! これはとんでもないことです。
第一のものと連続する第二の魅力は、サウナの良さが、しっかりと物語の中で組み込まれていることだ。宇宙サウナ! 奇をてらったような構造だが、サウナが宇宙に孤立する理由、最上質の「水風呂」がある理由、あるいは異邦人との出会い。すべてがしっかりと物語の中で説得的に理由づけられており、アイデア一辺倒で終わらせていないところが周到である。こうした理由づけや、あるいは単語の選択や配置などとても巧みであっという間に作品に引き込まれていく。

21世紀のサウナに日々通っていると、見知ってはいるが名前も職業も知らない「知り合い」と密室を共有することはよくある。本作主人公はストイックにサウナを愉しむ姿勢を見せるが、こういう「隣人」はサウナにつきものだ。この辺り、彼がどのように考えるのか。実際に本書を読んで是非確かめてほしい。

誰しもが楽しめる、サウナ愛に貫かれた名作と思います。是非味読を。

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