生ける都市に生きる

ややー、面白かったです。スッとレビューを書きたくなる、そんな面白さ。

本作は、G.g社という企業が地上の多くを支配する時代のお話。ふとしたことから、G.g社賛美の思想に疑問を持った主人公はフィリピンに飛ぶ。そこである人物と出会うわけだが……。

面白い点の一つ目は、「個人個人は「自由な思考・発想」が本当に出来ているのか?」を突き付けてくるところ。私たちの生活ですっかり身近になったSNSが道具立てとして使われて、思想統御の問題が手際よく提起される。

面白い点の二つ目は、一つ目と連動するのだけれど、人間個人の思考がAIの論理的思考に遠く及ばないとわかったとき、どうするか? の解決方法だ。物語の着地点と言うべき解決法がとても斬新だった。

この解決法の論点になるのが「都市」と「人間」との関係性だ。

従来の物語では、発達した人工体である「都市」は「人間」と対立するパターンが多い。漫画作品でたとえてしまうのだけれど、諸星大二郎の「生物都市」や弐瓶勉『BLAME!』などがそれで、「都市」が「人間」に牙をむくパターンが常套だろう。

本作はそうはならない。そこに新味がある。「都市」と「人間」との奇妙で斬新な関係性は、ぜひ本作を実際に味読して体感してほしい。

最後になるけれど、手記形式で書かれる文章も歯切れがよく大変楽しめました。フィリピンや朝鮮半島の作品舞台と相まって、まるで戦前の海外特派員の手記を読んでいるような気分を堪能できました。

おすすめです!

その他のおすすめレビュー

小川茂三郎さんの他のおすすめレビュー26