これが21世紀スタンダードとなりうる、恋愛小説のお手本。

なるほど、書籍化作品。
そう頷いたのが、最初の章を読みきったあたりでしょうか。
只野先生の人物造詣が偏屈でインパクト抜群、それに対する女性主人公の指摘や非難も漫才のごときコミカルさを織り成していたからです。
この掛け合いは受けるだろうな……と感心しました。

只野先生の描写をするだけで面白いんですから、こんなの傑作に決まっている!

物語からして、只野先生は昔たまたま文学賞に引っかかっただけのラッキーボーイというだけで、プー太郎の社会不適合者。
初めは担当編集者との恋愛になるのかなぁと思いきや、近所のスーパーマーケットで働くレジ係との恋物語になるのもおかしみがあります。

決定的なまでにそりの合わない二人が、一つの誘拐事件を元に変化が現れるのも巧い。
また、担当編集者は担当編集者で重い恋の悩みにさいなまれていて、主人公との比較表現がコントラストを生んでいるのもお見事でした。

書籍版を購入し、ウェブの原文と比べながらゆっくり拝読しました。
改行の詰め方、出版に際する卑猥な用語の置き換えなど、勉強になることも多々あり、恋愛小説のお手本としてふさわしい一冊です。

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