不器用ながら真っ直ぐな恋模様がじんわりと描かれた、味わい深い恋愛長編。

作家志望だけれど作品が認められない偏屈で風変わりな男、只野。派遣社員としてスーパーで働く地味な女性、まひる。輝かしいサクセスストーリーとは縁がないように見えるそんなふたりが、スーパーの生卵売り場で衝撃的(?)に出会い、少しずつ互いを理解し、歩み寄っていく。不器用ながら真っ直ぐな二人の姿が温かく、じんわりと描かれた、とても味わい深い恋愛長編です。
主人公であるまひる、只野。まひるの親友のみやこ。まひるの勤務先の上司、みやこの勤める出版社の編集長。まひるの両親——。主人公のみならず、登場人物達全ての人間性や個性が細やかに描き出され、彼らが紡ぎ出す情景や台詞の一つ一つが、物語を非常に濃く味わい深いものにしています。それぞれのキャラクターの人間臭さや温かさ、汚さ、いやらしさ。綺麗な部分だけではない人間の様々な表情が、作品いっぱいに満ちています。だからこそ、その中でぽろりと零れる台詞の一言や温かな笑顔が、読み手の心を強く揺さぶるのでしょう。
最初こそ変人めいていた只野が、読み進めるうちにどんどん違う顔を見せ始めるのも、この作品の大変魅力的な点です。むさ苦しい偏屈男が、いつの間にか……!?という一種の驚愕を味わうこと必至です。
戸惑いながらも、お互いを想うこと、解り合おうとすること、歩み寄ること。そんな大切なことに気づかされる、とても幸せな読後感の物語です。

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