第9話 愛する人へ、2
『もし・・・時間を戻せるのならば、・・・の全てを使ってあの人が・・・な未来を、だから―――』
『それがお前の願いか?』
相手が頷く。
『そうか』
眩しいくらいの笑顔が向けられる。
今でもふと思う。あの時の選択は間違っていなかったのだろうか―と
2001年 7月
ミーンミーンミーン
夏の暑さを象徴する蝉の鳴き声
たった7日の生命を懸命に他者に刻み込もうと必死に鳴く。
その姿を哀れにも思うし、羨ましくさえも思う。
「暑い…」
食べかけの棒アイスが溶け落ち、口の中をひんやりさせるがクーラーの効かない部屋で扇風機だけでは限度というものがある。
「だるーい」
扇風機の前で体を横にして床の冷たさを体に伝える。
「おい、人様の家でくつろぎすぎ!あと、暑いんだから暑いって言わないの!!」
部屋に入ってきた友人…部屋主である
「ありがとう」
「どういたしまして。兄貴に頼んでた
「マジ?」
「マジ」
弥空はストローでコップの中に入ったジュースを混ぜる。
カランカランと涼し気な氷の音が響く。
溜め息をつきながら気怠げな体を起こし、ジュースを口に含む。
「で、どうするの?」
「んー?来週の修学旅行中に抜け出してもいい?」
「別に涼雪が本気なら構わないわよ。後で合流すれば問題ないし」
「なら、返信しとかなきゃ」
弥空から自分の携帯を受け取り、修学旅行の中日で自由行動時間にそちら―小説運営会社に伺う旨を伝える。
遡ること4日前
携帯に一通のメールが届いた。
内容は私がとある携帯小説サイトで投稿している作品を書籍化したいので1度会えないか…的な内容だった。
初めは私が利用している運営会社では無かったため半信半疑であったので親友の弥空に相談した。弥空の兄はこういう関連が得意のためお願いし現在に至るわけだ・・・。
一週間後
「じゃぁ2時半にハチ公前でいい?」
「分かった」
「なんかあったら連絡しなさいよ〜」
手を振って弥空達と分かれる。
1人で高層ビルの間を通って目的の建物に辿り着く。
少しの期待と不安を胸に抱きながらビルの中に足を踏み入れる。
「おーい、
ガタッ!!
「ほ、ほんとですかぁ?!」
「おう。さっき受付から連絡来たぞ!」
上司がニマニマした顔で僕を冷やかす。
やっと会える!ずっと会いたかった人に…
急いで立ち上がり応接室に向かう。
「ちゃんと許可取れよ!」「分かってます!!」
仕事相手とはいえ自分の好きな作家に会えるのは中々に嬉しいことだ。
しかも運が良ければ担当者にもなれる。
そんなワクワクを隠しきれずに応接室に向かう僕はおそらく・・・・幼い子の様にはしゃいでいた・・と思う。
コンコン
「失礼します」
長身の若い男性が応接室に入ってきた。
「はじめまして。我社の小説担当課の羽佐間と申します。」
「はじめまして。この度はご連絡くだらりありがとうございます。『この恋』を書いている
男性―羽佐間さんはニコニコした笑顔で小説を書籍化するにあたっての説明を親切に1から教えてくれた。
「・・・以上が大体の流れになります」
「なら担当は羽佐間さんでよろしいのですよね?」
「はい!担当替えもありはしますが最初は私が担当になります。」
必要な事をメモしたノートに羽佐間さんの連絡先を書いてもらう。
書籍化するにあたって一度作品の誤字脱字の確認と縦書きへの修正が必要らしく、確認して貰うにはやはり連絡先を知っていて損はないと思う。
話が終わりそろそろみんなと合流しなければと思い席を立ち上がる。
「あ、あのっ!」
「はい?」
急に声をかけられ振り向く。
顔を赤らめた羽佐間さんが片手を差し出している。
? いったいなんなんだろう
「実は僕個人として先生の作品が大好きなんです!!なんで握手してもらっていいですか!」
キラキラした瞳がまるで少年のように真っ直ぐすぎて思わず吹き出してしまった。
「ふふふ、変な人。握手でいいならいくらでも」
私も手を伸ばし、触れた手に力を込めて握手する。
「わぁぁぁ!あ、ありがとうございます」
興奮した様にはしゃぐ彼はなんだか子供ぽくって親近感が湧いた。
胸があったかくなるようなむず痒くなるような感覚。
「あぁそれと『先生』はやめてください。私の方が年下ですし…名前でお願いします」
「わかりました。せん…いえ、伊森さん。よろしくお願いします」
優しくてでも少し子供っぽい所がある人―それが彼の第一印象だった。
こうして私は、はじめて彼に出会った。
時戻り 紗凪 カナ @tokiyomodore
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