第8話 愛する人へ 1
Time clock
それは近所の馴染み客が多い喫茶店
朝は出勤前のサラリーマンや学生が…昼はご近所の奥様方の井戸端会議場として…夜は店主の気分次第で飲み屋として開店していることもある。
これが普通の人のTime clockという喫茶店の認識
だが、ある一部の者達からは違う認識をされている。
・行けば願いが叶うー後悔をやり直せる店
・とある神が営む近づいてはいけない場所
・気まぐれ店主が営む不思議な店(何でも屋)
等と認識されて忌み嫌われ、利用される場所でもある。
この店の朝はそれなりに忙しい
店長と従業員1人の計2人で仕事をまわす
人手不足で朝はめまぐるしく感じられる
そんな今日はいつも以上に忙しい
厨房で1人トースターセットと朝ごはん定食を5人前作りながら充実感溢れるため息を私、記録神はつく。
時様は今日朝から出かけられていて不在のため私は常連客を相手にいつも以上に働いている
時たま目が合うカウンターに座る男性ー50代ぐらいの男性姿の亀水巳神に何故かイラッとして殴りたくなる衝動にかれこれ20回以上襲われた気がする
「朝から大変だね」
「分かっているなら手伝うか消えるかしてください」
「あはは、常連客に冷たいことを言っちゃダメだろう?」
チッ。
舌打ちをかましながら、他の常連客の元へ注文されたメニューを笑顔で持って行く
亀水巳神以外は人間であるので愛想よく会話をしながら注文をとったり、会計したりする
次第に時刻が9時半をまわると客はみな仕事へと足を急ぎはじめ、2時間以上に渡る忙しくも充実感に満ち足りた時が終わりを告げる
「今日は朝から時ちゃんは墓参り?」
カチャカチャと洗い物をしながらカレンダーに視線を向け、頷く
「今日は朝から会う約束をしていたので百合の花束を手に朝方出かけられました。」
コーヒーカップを口から離した亀水巳神は懐かしい様な切ない様な表情で遠い過去を見つめる
あれから3年…
早いものだ。時間の流れがどれほど残酷かは分かっていても時様に仕えていると考えざるを得ない日々を過ごしている
『人も神も皆、時の流れに抗うことはできないさ』
かつて時様がおっしゃった言葉が頭をよぎる
抗うことができない・・・確かにそうだ
では何故人はこのTime clockに足を運ぶのか・・・
考えても答えのでない疑問に今日もまた悩み始める。
朝露が道端の草葉を濡らし、朝日に照らされ露が輝く時間
私は坂道を花束を抱えて歩く。
真っ白な百合が包装された花束
朝の澄んだ空気が冷気となって身に染みる
今日は命日
時戻りの依頼者だった人の3度目の命日
今年はその依頼者の関係があった人に呼び出されていた
だから、わざわざ朝早くから墓参りに行っている
いつもは昼間の仕事が一段落してから行くのだが…店は大丈夫だろうか
キロクは何でもやってくれるいい子だが、朝のTime clockはとにかく忙しい
1度朝の仕事が面倒で店を開けなかったら客にものすごく文句を言われた
あれ以降、長期休暇と年末年始以外は嫌でも店を開けている
1人甲斐甲斐しく働くキロクのためにせめて労いの意として帰りに団子を買って帰ろうと思う
坂を登り、石階段を登り、小さな丘型の集合墓地が見渡せるようになる
そこから目的の墓に向う
そこには既に人影があった
スーツを身にまとい、両手を合せて長く拝んでいる
後悔と愛おしさが混ざり合っているのが私の目には見える
まだ…いや、心から愛した者の死を受け入れられなくても少しづつ受け入れて今があるのか…
風が靡く
花束がカサカサと音をたて、愛する人を失くした人がようやく私と目を合わせる
困った様なはにかんだ顔をこちらに向けて一礼する
「ずいぶん早いな」
「このあとも仕事ですから」
「相変わらずか」
「えぇ。でも、今回で約束がとりあえず果たせます」
「よかったな」
「はい。・・・・・ありがとうございます。」
礼を言われる覚えはないが静かに頷いておく。
花束の包装を解き、花を添える
線香に火をつけ拝む。
3年 あれから3年
長くもなんと短い時間だっただろうか
依頼者が強烈な依頼を叩き出したのがつい昨日の事のように思う
面白い依頼者だった
長年時戻りをしてきてもあんな要件を出したのはこいつが最初で最後だった
惜しい人だった
「で、話ってのはなんだ?」
呼び出さした相手に背中越しに話しかける
「今までのこととこれからのことをご相談したくて」
傍から見れば不思議な光景だ
20歳後半の大人が10歳ぐらいの少女に向かって敬語を使う
一方少女は大人に対して命令口調で話をしている
不思議な光景は当事者からすれば当然のことなのだが…
私は後ろを振り向き、相手の瞳を見つめる
相手も見つめる
見透かそうと思えば見透かせるが、面倒でめある
だから…
「相談するのに立ち話はなんだからどっか店に行こうか」
相手の話を聞くことにする
相手が頷き、話を聞ける店へと足を向ける
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