第4話笑わない少女と人造勇者

遺失機関ロストエンジン。 遥かな古代に栄えたアル=レギルス文明にて創られた強大な魔道具の総称である。

私が落ちた迷宮ダンジョンも、元はと言えばアル=レギルス文明の遺物であった。

その目的は人造勇者イミテブレイバーの創造。

アル=レギルス文明時代において、魔王と呼ばれる存在がいたという。

本来、勇者ブレイバーとは女神ル・シャラにより異世界より召喚される存在である。


しかし、アル=レギルス文明時代にはル・シャラ信仰は、と言うよりも五大神信仰すら失われていた時代であったため、勇者召喚が行われることはなく、魔族との戦いは苦境に立たされていた。

そこで魔族対策として様々な方法が取られた。勇者の迷宮もその一つである。

アル=レギルスの超技術により創られた迷宮ダンジョン。 現実時間の一分が内部の一年に相当する時の、そして気の狂った世界。

その内部にいる魔物モンスターは、当時猛威を振るった中でも強大な魔物モンスターを精巧に模倣コピーしたものだが、その脅威や倒した際に入る経験値に違いはない。

そして、本来人間種の才能限界カウンターストップはレベル300ほどと言われるが、この遺物機関ロストエンジンはその限界を超えてレベルアップが可能となる。

どのような原理なのかは私には解らない。

そんな力を持つ魔道具だが、この魔法学園では封印されて隠されていた。 なぜか?

それは、重大な機能が破損していたからだろう。

本来なら使用者が危険な状態になった時、直ぐに現実世界に転移して脱出できる機能があったのだが、あれはその機能が壊れていてクリアするまで出ることが出来なくなっていたのだ。

しかし、私にとって不幸だったのはそのことではない。私にとって不幸だったのは、偶然手に入れた能力、時戻しリバイバルの力だった。

死んでも再び蘇る、蘇ってしまう。そんな力を手に入れてしまったのが私の最大の不幸だろう。


幾度と無く繰り返す死。

生きたまま魔物モンスターに喰い殺される。時には死にきれず何日も苦しみ抜いたこともあった。そんな事を繰り返しながら、私はあのクソッタレな迷宮ダンジョンをクリアしたのだ。



目が覚め、素早く状況を確認する。

敵影……無し。身体状態……異常無し。 それでもゆっくりと身を起こし何時でも対応が取れるようにする。


……そうだ、還ってきたんだったわね。

私は息をそっとはいて身体の緊張をほぐした。

しかし油断はしない。 いや、出来ない身体になったと言うべきか……

我ながら可笑しくなったが顔の表情筋が動く様子はない。

笑い方すら忘れた。いや、笑う必要を感じなくなったと言うべきか。


私はしばらく顔を弄ってみたがふと思い出す。

そう言えば、たしか私は眼鏡を掛けていたのだったか……

ストレージから眼鏡を取り出す。

懐かしいな。 ストレージを手に入れてからは放り込んだままだった眼鏡を掛けてみる。


うっ……レンズの度がきついな。

私は度のせいで目眩がした為、眼鏡を一度外しレンズ部分に指を這わせる。

ー変換ー

スキルによりただの度のないガラスへ変換して改めて眼鏡を掛ける。

もう眼鏡を掛ける必要性はないが、こちらでは殆ど時間が経っていないのだ変に疑われるのは面倒だ。


それにこれは院長先生からの形見分けだしね……


私は部屋に備え付けの時計を目にし時間を確認する。

今は朝の6時か……

丁度いいので、システムメニューの時計機能をこちらの時間に合わせておこう。


システムメニューは私が手に入れた力の一つで人造勇者イミテブレイバーの能力の一つだ。

マップ機能や前記の時計機能、ストレージもこの能力の中の一つである。


朝食のため、ストレージから魔物モンスターの肉を取り出そうとして、ふと気付く。

そう言えば6時から食堂が使えるんだったか……

何年ぶりかのまともな食事にありつくため手早く身支度を整えると、部屋から出た。



食事が出来るとはいえ、6時は早いらしく人もまばらだった。

わずらわしくなくて助かるので、今度からこの時間に朝食を取ることにしましょう。

そんなことを考えながら、受け取りカウンターへ並ぶ。

メニューは、黒パンに何かの肉の浮いたスープ……なんというご馳走なのかしら。

あのクソ固くて不味い魔物肉を食う必要がないだけで天国のようね。

テーブルにつき早速いただこう。

昔は固くて難儀していた黒パンも柔らかくとても美味に感じる。 スープの暖かさも身に染みるようだ。

これは、なんの肉だろうか? 今なら人肉であっても美味しくいただける気がする。


まあ冗談なのだけれど。



食事を終え部屋に戻る途中、リティシャに会った。


「酷いよマキナちゃん! 先に食べてるなんて。」


と責められたが、この女と約束をしていただろうか?

朧気おぼろけにいつも朝食を一緒に取っていたような気がするが、まあどうでもいいわね。

私はスルーして部屋へ戻る。


「チッ! シカトかよグズ女。」


との声が聞こえたが、なんとも裏表の激しい女である。

昔は親友などと思っていた自分が恥ずかしい。

まあ大した脅威にもならないだろうが意識の端には置いておこう。


たしか始業は9時からだったはず。

部屋にあった時間割を見ながら取りあえず支度をする。

正直、この学園に在籍する理由を感じないが、しばらくは学園生活を送るのもいいだろう。


私は時間が来たので学園へと向かう事にした。


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