笑わない少女は血薔薇と舞う

凪崎凪

第1話笑わない少女と

薄暗い通路に私の荒い息遣いと、石畳を叩く革靴の音が響き渡る。

私の後ろからは、恐ろしい魔物モンスターの吠え声が迫る。

早く、早く逃げないと殺される!


私は必至になりながらも、どうしてこんなことになったのか、走り続けたことで暴れまわる心臓に苦しみながらも思い返していた……





「ねえ? マキナさん。 少し宜しいかしら?」


その聞きなれてしまった声に仕方なく振り向く。

振り向いた先にいたのは、すでに見慣れてしまった三人。


真ん中には、豊かな金髪を四つに分けて縦にロールさせたレシュトーラナ王国で流行っているというレシュト巻きをして豪華なドレスに身を包んだ少女は、このストレイナ王国の伯爵令嬢であるジョリーナ・ル・コンティナ。そしてその取り巻きのルシル子爵令嬢のアベリナ、そしてジャール子爵令嬢のメアリーだった。


ジョリーナ嬢はこちらが返事をする前に、その見事な金髪を芝居じみた仕草で掻き上げながら話し出す。 宜しいかと聞きながらも私の事などお構いなしに話を続けるのは何時ものことたっだ。


「ちょっと倉庫までいってきてくださらない? 先生から倉庫の整理を頼まれたのだけれども、わたくし用事かありまして。頼みましたわよ。」


こちらが何も言えないままでいると、言うだけいって踵を返し去っていく……メアリー嬢が早く行きなさいよグズ! との捨て台詞を置いて。



……仕方ない、仕方ない。私は孤児院育ちの平民、あっちは大貴族だ。逆らうだけ無駄なんだ。

私は知らず溢れそうになる涙を拭いトボトボと歩き出す。


このストレイナ王国の王都にあるストレイナ王立魔法学園では身分の上下はないとの建て前だが、実際には貴族が幅を効かせている状態だ。

教師ですら大貴族の子息、令嬢の顔色を伺うのが普通である。


この学園は魔法の才能があれば誰でも入ることが出来る。 王立で王の私財によって運用されており入学料などは取らない方針だった。

そのために平民も少なからず入学している。

しかし、魔法の素質は貴種たる貴族に多く現れるために魔法学園では貴族の方が多く在籍している。

王の私財で運営しているとはいえ、資金に余裕があるわけではない。そのために大口の寄付をする貴族や商人の子供には自然と融通してしまう。

そして、教師による依怙贔屓などか発生するという歪んだ現状が生まれた。

とはいえ、だからといって私にどうこうできる訳でもなく、素直に言うことを聞いているしかない。

歩きながら、ため息一つついて涙を拭いた時に少しずり落ちた眼鏡を直し倉庫へと足を向ける。

イジメを受けている自覚はある。

それも私に何も能力も無いためだろう。

魔法を操る才能はあったから学園に入れたがそれだけだった。

簡単な火の初級魔法すらロクに使えず、入学して3ヶ月ですでに落ちこぼれの烙印を押された。


いけないっ! 思わずまた涙が溢れそうになったが慌てて目頭を押さえる。

この学園に来てから気弱になってしまったようだ。

孤児院にいたころは、小さい子の面倒をよく見ていたから泣いている暇なんてなかったのに……


そうこうしている内に倉庫室の扉の前に辿り着いた。

倉庫というが、ここは校舎内にある備品を置いてある所だった。

私は扉を開け中に入る。

そして数歩足を中に進めた時、突然扉が閉まり外から笑い声が聞こえた。

この声は……ジョリーナ嬢達!? 慌てて扉に駆け寄り開けようとするが、ガチャガチャと音が返ってくるばかりだった。

そんな、開かない!?


「あ、開けてください!」


私は外にいるジョリーナ嬢達に言うも、笑い声が聞こえてくるだけで返事が無い。

しばらくすると、扉の前から笑い声と一の気配が遠ざかる……


そんな……酷いよ。 私は涙を押さえられず泣き出した。



ひとしきり泣いた後、どうにか気持ちを奮い立たせ出れないか調べる事にした。


窓……はない。 貴重品も置いてあるため防犯上の理由から窓は潰してあるらしい。

他の扉ももちろんない。


鍵は外から掛ける錠前タイプらしく中から開けれない。

何かないの?

部屋の中にある備品すら漁るが……役に立ちそうな物はなにもない。

こんな時こそまほが使えれば……開錠アンロックの魔法で鍵を開けれるのに。


うん? 

それでもあきらめきれず調べていると、部屋の隅に亀裂があり、そこが何か光ったような気がした。

私はその亀裂を覗き込んで見た。


なにかがある? 亀裂の奥に何か鏡のような物が見えた。これが光ったのかしら?

でも何故こんな所な鏡が?

私が疑問に思った時、その鏡が突然強い光を放ち私は思わず目を閉じた。



光が収まり、恐る恐る目を開けると、そこは薄暗い石造りの通路だった。


「ここは……どこ?」


突然のの周囲の風景の変化に思考が追いつかない。

私は呆然と立ちすくむたけだった。

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