第14話笑わない少女と訪問

自室に戻って一息つく。

そこに耳障りな甲高い声。


『なあ、ちと疑問なんだが』


「……どうやってストレージから出てこれたの?」


私の前で空中に浮かんでいるのは、ストレージに収納したはずの鉄屑カリヴァーンだった。


『あん? そんなのちょちょいっとだな。んなことより教えろよ!』

「なにを?」

『とぼけんなよ。状況は中から見て知ってる。あの貴族の嬢ちゃんを殺すんだろ? なんでこんなまどろっこしい真似すんだ? サクっとやればいいだろ?』


私はベッドに腰掛け、呑気な様子で浮かんでいる鉄屑カリヴァーンを睨み付ける。

「そんな芸当が出来るなんてね。」

『当たり前だろ? 俺様を誰だと思ってるんだ。神話武装ゴッズウェポンだぞ! しかも超希少UR知性武装インテリジェンスウェポンだぞ? かつては俺様を求めてどれだけの勇者プレイヤー課金ガチャ回し地獄に陥ったか……』

「課金地獄?」

なにやら聞きなれない単語が出たが、鉄屑カリヴァーンは誤魔化すように言葉を連ねた。

『それはいいんだ! とにかく教えろよ』


まったく……


「教えたらすぐに引っ込みなさい」

『へいへい』

その適当な返事に不安を覚えたが説明することにした。


「まず、ジョリーナは殺す。これは決定事項よ。でもただでは殺さない。これは復讐なのだから。」

顔、どころか人ですらない鉄屑カリヴァーンだが何も言わず話を続けるように促している気がした。


「まず、決闘騒ぎの時に私はジョリーナに不干渉でいようと言ったわ」

『そうそう、まずそこがわからねえ。なんでそんなこと言ったんだ?』

「あれはただの挑発よ。考えてもみなさい。その身分ゆえにプライドが高く傲慢になっているあの女がたかだか平民に、それもいままで見下していた私にあんな公衆の面前で虚仮にされて平然としていられる? 現にすぐミダイを使って暗殺しにきたわ」


『挑発ねえ?』

「そう、そして暗殺は失敗。しかし私はジョリーナになにも言わない。ミダイは戻ってこないし、さぞ混乱しているでしょうね。暗殺自体行われたのかすら不明なのだし」


『ほうほう、んで『バルバロイ・アックス』に喧嘩売ったのはなんでだ?』


「あれはコンティナ家の戦力を削ぐためよ。コンティナ伯爵家は領地を持たない貴族。正規の兵は持っていないわ」

『あいつらは私兵代わりか』

「ええ、領地を持たない貴族にはままあることよ」

すぐさま『バルバロイアックス』の血盟員クランメンバーが集まれたのもコンティナ家の指示だろう。

コンティナ家からの依頼もあったはずだ。それを勝手な判断で放り出して集まれるはずがない。


『んでもよ。んなめんどくさいことしなくても嬢ちゃんなら直接殺せんだろ? ……ああ、楽には殺さないってことか』


そう、そしてこの前に仕込んだ仕掛けがそろそろ身を結びそうであった。


『そういえばこの前コントロールルームでなんかやってたな。あれは……む?』

私とカリヴァーンは同時に部屋のドアへ意識を向ける。

気配は……一つ。

この反応は……


「入ってきたら? リティシャ。鍵は……今明けたわ」

開錠アンロックの魔法でドアの鍵を開けてやる。

戸惑いの気配ののちゆっくりとドアが開く。


「おじゃましまーす」

そういって部屋の中に入り辺りをきょろきょろ見渡し、空中に浮かんだカリヴァーンを見てぎょっとした表情をした。


「け、剣が浮いてる!?」


『おう!チチのでかい姉ちゃんよろしくなっ!』

「剣が喋った!?」

私は深くため息をついた。


「カリヴァーン、少し黙ってて」


私の言う事を素直に聞き届けたのか、スっと私の側まで寄って来た。


リティシャはそんなカリヴァーンを見て、眼を白黒させていた。

「なんなのよその剣!?」

「ただの知性武装インテリジェンスウェポンよ。気にしないで。それでなんの用なのかしら?」

「インテっ!? いやいや気にするなって方が無理でしょっ!? 伝説の武器じゃないっ!?」


私は混乱している彼女に構わずここにきた理由を再度尋ねる。


「それで? なんの用かしら」


とりあえず追及をあきらめたのか彼女は話を始めた。


「あんたにお願いがあってきたのよ」

「お願い?」

私の問いに静かに頷く。


「あんたがなにかしてるのは知ってるわ。と、いってもコンティナ家子飼いの冒険者と揉めてるってことぐらいだけど」

私は無言で続きを促す。


「ここからは私の想像だけど、あんたはコンティナ家を、ジョリーナをつぶそうとしてる……」

ふーん、予想より頭が切れるようね、それに……


「盗賊ギルドと繋がりがあるのね?」


そう言ってみれば身体をビクっと震わせるリティシャ。

当たりか。

ただの学生にそんな情報が掴めるはずがない。

そこら辺の盗賊ギルドとの繋がりは、復讐者アヴェンジャーの称号を持ってることと関係ありそうね。

だが今回は関係がない。


「で? だとしたらなに?」

しばらく逡巡したのちリティシャは口を開く。


「もしそうなら! アベリナを、リシル子爵令嬢のアベリナを私に譲ってほしいのっ!!」


そう叫ぶように言い放ったリティシャの眼は憎しみに彩られて怪しくきらめいて見えた。



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