御都合主義を排した戦争ものでも人の心を打てることを示す作品

まず最初に言っておきますと、私自身はこの作品、すごく好きなんですが、万人にお勧めできるかっていうと微妙なんですよ。だって、都合の良い物語を求めている人は多いですよね? 

信念を持った正義の味方によって、悪い奴がぎゃふんと言わされたり改心させられたりして、救われた人々は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし――そういうやつです。

いえ、そういうのが駄目って言うつもりはまったくありません。現実世界は都合良くいってくれないことだらけで気が滅入るんですから、虚構でくらい都合良く話が進んでスカッとする世界を楽しみたくもなりますよ(流行りの異世界チートとかはまさにそういう感じですね)。


現実は物語のようにきれいに都合良くいってはくれなくて、テロや戦争の話となれば尚更そうです。どちらが正義でどちらが悪かは見方によって変わり、悪と評される側にも三分の理くらいはあり、正義と評される側にも醜悪な面がある。そして、多くの人々は救われていない。

だから、テロや戦争を扱った物語で御都合主義を排し、リアリティを追求しようとすると、美しい話、スカッとする話にはしづらくなり、読者の心を打つのも難しくなるのではないでしょうか。

そういう意味では、この物語も美しくてスカッとする話ではありません。読み終えて、モヤモヤとする人も多いでしょう。ラストに一抹の救いを見出す人もいれば、なんと救いのない結末だと思う人もいるかもしれません。

イスラム圏でのテロと戦争を扱ったカクヨム作品として、私が他に読んだものでは『撃ち落とされるまで、あと何分?』がありますが、あちらの作品が現実ではそうそう無さそうな美しい展開を入れることによって気持ちの良い結末にしているのとは、好対照と言えるかもしれません。


万人にお勧めできるかは微妙、と私が最初に書いたのは、まあ、そういうわけです。

しかしそれでも、私はこの作品が好きです。

最後にMが求めた、些細なようで、しかし得難いものが明かされた時、「ああ、そうか。彼は、それを求めたのか」と、しみじみと心を打たれました。

都合良くも美しくもなく、どこまでも現実的な、やるせない世界を描いた作品でも、人の心を打てるのだと示した良い作品だと思います。

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