リアルの科学業界を知る人間にとっては恐ろしい話でした。いやあくまでも誇張なのはわかってるのですけども…けれども…!主要登場人物、全員が全員アカデミズムの闇を上手く具現化していて、読んでいて胸が締め付けられる思いでした。
ちなみに科学者の男女比率は、理系全般でいうと 生物>化学>>物理 でしょうか。各分野の中でも専門ごとに大きな開きがあるので何とも言えませんが。
ただし海外、特に欧州では日本ほど酷い男女比率の乖離はない気がします。主人公もオオタカの研究のために博士過程で思い切って海外の大学院に行けばこんなことには…(?)
かわいいゆるキャラ「クマムシさん」の考案者としても有名なクマムシ博士が描く研究者の恋愛……さぞかしゆるくて可愛らしい物語なんだろう、と思った皆さん、ハイ残念!鬼です。これを書いたのはただのクマムシ博士ではなく、オニクマムシ博士のようです。
オニクマムシと言えば、ワムシとか他のクマムシを襲って喰う肉食系のあれです。それと同様に(?)登場人物達も肉食系です。オスはメスを獲得しようと鵜の目鷹の目、メスは少しでも条件の良いオスを選ぶべく豹変します。
なんかそういうの、「ダーウィンが来た!」とかでさんざん見てるはずなのに、何でこんなに殺伐としているように感じるのでしょう。人間同士の物語だと、もっと愛を前面に出すのが普通だからでしょうか。そういえば、タイトルにはラブとついていますが、愛より悪意の方がよく登場する話でした。
ちなみに、ところどころで挟まれる「マイナーリビジョン」「レビュアー」などのアカデミック用語にもくすっとさせられました。
どこまでも理性的で打算的で利己的で排他的な恋愛モノでした。
生物が保持する恋愛感情は、突き詰めれば生物としていかに強い子孫を残せるかという生存原理に基づくものですが、それを現代に生きる人間に当て嵌めて分析すればどうなるか。
結論はある意味当たり前ではあるのですが、何かといえば夢想しがちな恋愛感情を現実的価値観として徹底的に滔々と描写し続ける本作品には、唯一無二の魅力といいますか、破壊力がありました。
構成、文章、描写、メタファーに一切の無駄がなく、丁寧に組み立てられた作品で、ああ、正にこれは理系の恋愛小説だな、と感服せざるをえない作品でした。
このどこまでも理屈の通った作品をもっと読んでみたい。次回作に期待したいです。
なんというか、ほへーみたいな、人間はめんどくさいですねみたいな感じがあって、すごい世界を見てしまった感があります。コワイ。ほぼ地獄絵図だった。
何しろ愛の話なのに、愛される対象に対する魅力・関心の話が(性別以外に)ほとんどなくて、愛する自分の話しか出てこない。徹頭徹尾そのそれである。すごい。しかしそれも人間の真実なのかもしれない。そういうことまで突きつけられる。これは実はホラーなのでは?
というと批判してるように聞こえるかもしれないけど、そんなことなくて面白くて最後まで一気に読みました。そして震えました。きっとこういう物語はそこかしこに偏在するのでしょうね。奇妙な世界はあなたのすぐ横に、みたいな。やっぱりホラーなのかもしれない。