ミステリーはお好きですか?

 外部と連絡の絶たれた陸の孤島。
 お互いが初対面のなか起きる殺人事件。
 殺人に際して見立てが使われる。

 これらのキーワードにピンときたそこのあなた、良い小説ありますよ!

 それがこの「ミックスベリー殺人事件」です。
 主人公たちは果実のベリー類の名前をハンドルネームを使うチャットのメンバー。そんな彼ら・彼女らがはじめてオフ会を行うことになる。奇しくも、これもまたベリー農園を併設するペンション・カシスで……。そして彼らは実物のベリーを予告のように置かれることで次の犠牲者を知るのです。
 古き良きクローズドサークルものと言ってしまえばもはや説明はいらないでしょう。

 興奮はここまでにしておいて、中身のほうに入らせていただきます。筋書きもさることながら、ストーリーのなかに一人ひとりの思惑がきちんと組みこまれている点が素晴らしい。心理状況などもちゃんと配慮されているのもかなりの好印象。
 十人を超える登場人物は完全にバラバラな個性の持ち主で、それほど混乱することもありません。さらに挿入される独白は、「このHNは誰なのか」と読者に想像・推理させることもできています。また、最後の種明かしに関しても、無理のないところから少しずつ読者を説得し、納得させていく手法もちゃんとできているのがすごい。

 まさに「クローズドサークル物の王道」ともいえる本作。

 とはいえ、読む人にとっては王道である分物足りなさを感じるかもしれません。ある程度予測がつくことも……しかし、それがどうした! はじめてクローズドサークル物を読んだあの懐かしい空気がここにはあります。
 いやむしろ、はじめてミステリーを読むという方には、ここからその道へと転がり落ちてくることを期待しています。

 ミステリーとはこんなに面白いのだ!

 それにしても、これを一つ書き終えるのにどれほどのものを調べ上げたんでしょうか……。それぞれの登場人物にあてはめられたベリーの知識ひとつとっても、上等な伏線のような気すらしてしまいます。

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