古くて新しい二十一世紀の見立て殺人

本作はクローズドサークルでの見立て殺人を主題としたミステリーです。

ベリーにちなんだ名前を持つメンバーだけで構成されるチャットグループが二泊三日のオフ会を開催したところ、参加者が次々殺されて……という筋立てのド直球の本格ミステリーですね。

さて、本作の白眉はやはり「見立て殺人」でしょう。

犯人はオフ会の参加者たちを殺害するとともに、二種類のベリーを残していきます。

ひとつは被害者の見立てとおぼしき潰されたベリー。もうひとつは、次の被害者の見立てとおぼしき他のベリー。

もちろんこれらは犯人がある目的のために残していったものなのですが、この見立てによって本名と紐付いたハンドルネームを知られるのは危険だという認識が早々に共有され、生存者たちが互いにハンドルネームと本名の一部を隠すようになるというのがまず面白い。

小出しにされるベリーたちの独白もあって「誰が何ベリーなのか」は本作においてかかすことのできない魅力的な謎であったように思います。

また、生存者たちがハンドルネームと本名の一部を隠し合うことによってより孤立感が深まっている点もうまいなと思いました(よく推理小説の登場人物が「こんなところで犯人と一緒に夜を明かすなんてごめんだ! 俺は部屋に戻る!」と言い出すことについて冗談のネタにされることがありますが、本作で初日に各々が自分の部屋で寝るのはさほど不自然な行動ではないでしょう)。

そして先ほどさらりと流してしまいましたが、犯人がベリーの見立てをした理由も良い。わたしはたまたま近いパターンのトリックを知っていたためそれで犯人を特定できたのですが、既存のトリックをうまく組み合わせて魅力的でユニークなトリックにまで磨き上げているように思います。

これだけでもおなか一杯ですが、まだあります。とある人物が、ベリーの見立てを利用し、一種の逆トリックを仕掛けるという展開があるのです。見立て殺人という素材をここまで掘り下げることができるとは、と感服することしきりでした。

警察関係の記述と、第二の事件について若干気になったこともありますが、ネタバレになるのでここでは触れないこととします(あ、でもひとつだけ。第二の事件のトリックそれ自体には驚愕しました。すごいです)。

まず間違いなく傑作と言って良いと思います。
骨太の本格ミステリーが読みたい方は是非どうぞ。

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