死を忘れた魔女と死を知らない少年の物語。
【あらすじ】
死を忘れた魔女と死を知らない少年の物語。
ある夏の夜。立川アユムは、廃墟の屋上で好きな同級生に告白しようか悩んでいた。そんな彼の元に、空から銀髪の魔女が振ってくる。魔女はアユムの上に落ちてくるなり力を失うが、強引な言動と暴力でアユムを脅し、彼を廃墟から強引に連れ出す。
魔女――フラウはグングニル機関と呼ばれる組織から追われていたが、どうしても商業地区の向こうにある山の墓地へ行く必要に迫られていた。そこには戦死したフラウの夫の墓があったが、夫は戦死していないとフラウは言い、そこに行く目的は、戦争によって引き裂かれた夫との再開を邪魔している、ある人物に会うことだと彼女は言う。そして彼女は、アユムに追っ手をかわすために人質という名の盾になるか、それとも協力するかを迫る。
断る術が無く仕方なく協力することにしたアユムは、フラウから自分が彼女と同じ歯車(ギア)と呼ばれる運命を変える力を持っていて、それを操ることのできる存在――フェンリルの亡霊になる資格もあることを知らされる。そしてフラウは、力の使えない自分の代わりに追っ手を振り切るための力としてアユムを頼り、彼をフェンリルの亡霊として覚醒させるために、ユグドラシルと呼ばれる世界の裏側へと向かわせる。
ユグドラシルでアユムは、歯車のサポートをしている盲目白兎と出会い、歯車の説明を受けた後、彼によって強制的に輪廻転生を疑似体験することになる。その後、歯車になるかどうかの選択を迫られるが、アユムはすぐに答えることができず、時間切れとなってユグドラシルから元の世界へと戻される。
ユグドラシルから戻ってきたアユムは、フェンリルの亡霊として覚醒はできなかったものの、グングニル機関員の証でありフェンリルの亡霊を殺すことのできる武器――グラムの牙が発するノイズを感知できるようになっていた。その力によって追っ手の位置を掴むことができるようになったフラウたちは、追っ手を振り切るために町中を縦横無尽に逃げ回る。しかし、なぜか逆に追い詰められてしまい、困ったフラウはアユムを囮にしようとするが、追っ手が人狼であることを思い出し、その特性を逆手にとって人狼を撒くことに成功する。
なんとか商業地区で人狼を撒き、墓地のある山へと来た二人だったが、墓地へ着く前に早くも人狼に気付かれてしまう。フラウはアユムを連れて山中を駆け回るが、人狼は再び二人を追い詰めていく。しかし、人狼の爪が二人を捕らえようとした瞬間、人狼はフラウの仕掛けた罠によって動きを封じられ、捕まった人狼は「情けはいらない」と自分を殺すことを望む。しかし、フラウは「死が嫌いだ」と人狼をそのままにしてアユムとともに墓地へと向かう。
墓地へと来た二人だったが、そこに目的の人物はおらず、代わりにフラウの弟――カイルが義兄の墓参りに来ていた。そこでフラウは、カイルがグラムの牙を手にしていることに驚き、追っ手であるグングニル機関の一員になっていたことを初めて知る。そんなカイルの様子を窺っていた二人のそばへ、罠にかかっていたはずの人狼が傷つきながらも襲いかかり、その接近をいち早く感知したアユムは、フラウをかばう形で人狼の攻撃をまともにくらい、瀕死の状態に陥ってしまう。
魔女としての力を失っているフラウにはアユムを助ける術が無く、アユムを抱えてうずくまる彼女に、人狼だけでなく、その場にいたカイルも敵として襲いかかる。カイルは、死という運命から逃げてフェンリルの亡霊となった彼女のことを、自分たちを見捨てた裏切り者として憎んでいたのだった。人狼とカイルの攻撃を、アユムを抱きしめながら残された少ない魔女の力で耐えるフラウ。しかし、防戦一方のフラウは次第に追い詰められ、人狼の攻撃によって守りも崩されてしまう。そしてフラウへ絶命の攻撃が届くかと思ったとき、フラウが待っていた人物――ナンバー11が墓地へとやって来る。ナンバー11は人狼の動きを封じ、さらにはカイルを追い詰めていく。しかしその最中、フラウはカイルの父――すなわち自分の父をナンバー11が殺害していたことを知る。その後、フラウの力は回復し、彼女はアユムを歯車の力で瀕死の状態から助け出すと、自分もカイルとともにナンバー11へと対峙する。しかしナンバー11は、相手をする時間は無いようだと、死を免れたはずのアユムへ視線を送る。すると、アユムの体に変化が起きる。
それは、アユムの死を回避していた歯車の崩壊から始まった。次に、彼の体から突然風が巻き起こり、それは彼を中心として暴風となった。しかも、その暴風は巻き込んだものの運命を巻き戻す力を持っていた。暴風に巻き込まれた人狼は、運命を遡った果てに女性用下着に変わり果て、フラウとカイル、そしてナンバー11も暴風に巻き込まれそうになる。
暴風の勢力は拡大を続け、このままでは世界自体の運命が逆行し、最悪世界が壊れてしまうことを知ったフラウは、方法はわからないもののアユムを止めようとする。その横でナンバー11は、アユムの力は特別なものだと賛美し、自分なら彼を助けられると言い出す。しかし、その方法はアユムを人ではない別物へと変えてしまう方法だった。フラウはナンバー11の方法に反対し、盲目白兎の助言もあって、自分の歯車とカイルの持つグラムの牙を使ってアユムを助けに行くと言う。それに対してナンバー11は、なぜか特に反対することもなく、レディーファーストだと言ってフラウに先を譲る。
そんなやりとりが行われていた頃、アユムは暴風の中心で横たわる自分を眺めていた。そして、そんな彼の前に一人の男が現れる。男は軍服を着ていて、なぜか左の薬指を失っていた。男はアユムに運命をどうするのか選択を迫り、アユムは理解できない状況に何も選択できずにいた。しかし、自分を助けようとするフラウの声と尊敬していた祖母との思い出によって、アユムは、自分が今まで周りを気にしすぎて、自分の気持ちに素直になっていなかったことに気付く。そしてアユムは、男の問い掛けに対して、何をすべきかではなく、今自分が何をしたいかで運命を選択する。
一方、フラウは運命を巻き戻す暴風の中を、歯車の力で防ぎながらアユムへと進んでいた。しかし、アユムへ近づくほどにその力は増大し、遂にフラウの力が限界に来て前へ進めなくなってしまう。その場にいるだけで刻一刻と運命に傷ついていく中、フラウはアユムを助けるために夫の死を回避するために使っていた歯車を解放することを決意する。そのことを確認すると、ナンバー11は満足そうに姿を消し、そしてフラウは、解放した歯車の力を使ってアユムの力を封印し、彼を助け出すことに成功する。
その後、アユムを助けるために武器を失ったカイルは、フラウとの対決を諦め去っていき、フラウはナンバー11を追って、そしてアユムは新たな気持ちとともに告白をしに、それぞれ別の道へと歩いていく。