ノイズだらけの世界で彼らは出会う。
【あらすじ】
高校三年生の上瀬・愛は、父である登の描いた自分の裸婦像が原因で、いじめに遭っていた。しかし、好奇の視線にさらされながらも愛は学校に通い続ける。それは去年の夏に母が自殺し、それ以来心に傷を負ってしまった父を気遣ってのことだった。
ある日、愛は男子生徒達に体育倉庫へと連れ込まれ、乱暴されそうになる。しかし、そこに黒い兎の人形を抱えたゴスロリ少女のキリエと黒服姿の阿戸部が現れ、彼らは不思議な力と圧倒的な暴力を使って愛を助ける。そして、キリエは愛に事情を聞こうとするが、彼女は何も言わずにキリエ達の前から去ってしまう。残されたキリエは、体育倉庫に残された愛の裸婦像とどこか見覚えのある白髪を見つけ、愛への興味を膨らませる。
阿戸部とともに愛の様子を観察していたキリエは、そこで白い死神と呼ばれるアルベルトの姿を見つける。そしてアルベルトが持つ音叉の力によって、キリエは幼い頃に父を失ったときのことを思い出し発狂する。阿戸部の力によって落ち着きを取り戻したキリエは、このままでは登もアルベルトに殺されてしまうと愛に警告するが、彼女はアルベルトの不気味さに気づきつつも、今の父には彼が必要だと言い張り、キリエの言葉を拒否する。
登は夕美を失ってから、その代わりを愛の中に求め、彼女を娘としてというよりも一人の女性として愛するようになっていた。そのことを愛は父のためと受け入れたが、一方で登が今創作中の家族を題材にした作品が完成すれば、この狂った現状から抜け出せるとも考えていた。登にそう仕向けたのが、夕美の自殺直後に現れたアルベルトだとも知らずに。
ついに登は『月虹』を完成させ、自宅で行われる完成式に、アルベルトは阿戸部とキリエを招待する。しかし、そこで彼らを待っていたのは登の死だった。月虹とは、登自らも作品の一部となることで、家族の時間を取り戻すとともにそれを永遠にするための作品だったのだ。そして、アルベルトは登に協力することで、クラウンと呼ばれる世界との繋がりを彼からもらう約束をしていたと言う。登の死を回避できなかったキリエは、アルベルトから、せめてクラウンだけでも取り戻そうとするが、彼の力は圧倒的で傷をつけることさえできない。さらにアルベルトは、登を失ったショックで自分を見失った愛に、阿戸部とキリエなら父を取り戻せると囁く。愛は二人に詰め寄るが、キリエは自分の力では彼女を止められないことを認め、後を阿戸部に託す。阿戸部はクラウンワールドと呼ばれる精神空間に愛を引きずり込み、彼女の人格と魂を徹底的に破壊する。そして、その根底にあるクラウンに施されたアルベルトの呪縛から愛を解き放つ。
阿戸部による破壊の後、キリエによって精神構造を修復された愛は、その際に手に入れたパペットという不思議な力で月虹を自ら焼き払い、父の死を受け入れる。そして、同じ力を持つ阿戸部達とともにアルベルトを追って新しい人生を歩み始める。