3.炎上作家がWEB小説家になるまで
地元の公立中学で(深夜アニメを毎日見ながらだけど)必死に勉強し、偏差値70以上ある地元の進学校へ進学、そこそこの国公立にストレートで合格と、比較的
なので「教科書を読んで勉強をすれば結果が出る」という社会のルールを無根拠に信じていましたし、小説の書き方を勉強して新人賞という試験をパスし、作家という資格を手に入れたことで、その地位に甘えていたような気がします。
僕が受賞した当時、今から5年ほど前は、ちょうどWEB小説からの書籍化――いわゆる「なろう小説」と呼ばれる書籍化がラノベ業界を席巻し始め、自分たち受賞作家が苦戦にあえぐ横で華々しくヒットを飛ばし始めた頃でした。
実力主義の世界と言われてしまえばそこまでですが、正門を堂々と叩いて賞を獲得して出版社のお墨付きでデビューし、編集の助言やリテイクを受け止めて書き続ける僕たちが積み上げていくのは、「売れない作家」という実績だけ。
一方、自由に思うまま作品を書いていく中で「人気作」の冠と共に商業出版され、順調に増刷と続刊を重ねていくWEB出身の作家たち。
自分の状況とあまりにも差を感じるところが多く、WEB作家という存在を、正直に言えばかなり疎ましく、また
必死で勉強して入れなかった大学に、要領のいいやつが推薦入試で入っていくのを横目で見ていた、みたいな感覚です。真面目に小説の勉強なんかしとった俺がアホやないか!!
実は僕も元はと言えば、高校のとき友人に見せるためにWEBに投稿していた小説が、まあ最初と言えば最初の創作活動です。
とあるWEB小説投稿サイト――『ザ・BBS』というサイトに付随するサービス『随筆・ザの人』というサイトで作品を投稿していました。
今から十年ぐらい前になるでしょうか。今もサイト自体はありますが、WEB小説投稿サイトが山のように増えた現在、サイトの存在を知っている方自体少ないと思います。
しかも実のところ、このとき身内向けに書いていたWEB小説を応募用に改稿し、賞に送ってみたものが、後に僕のデビュー作となる『神童機操DT-O』という作品の出自でした。
ちなみにWEB連載時と応募時のタイトルは『純潔戦記ドウテイオー』という、なんというかまあインパクト一点重視のネタとタイトルです。
いや、他にもテンプレ的なSFとか伝奇モノもたくさん書いて応募してたんですけどね。結局通ってしまったのは処女作だったわけでした。童貞なのに処女作とは。
ちなみにタイトルが変更になったのは、担当編集の「タイトルがあまりに恥ずかしいから」というアドバイスによるものでした。
そのインパクトが刺さると思ってあえて挑戦してみたんですが、持ち味をいきなり殺された時点で、どうも担当の弱腰な姿勢に不満を抱えていた気がします。
あのレーベルから出てる他の作品、タイトルに思いっきり〝奴隷〟とか〝ビッチ〟とかついてるのに、〝童貞〟はダメだなんておかしいですね。女性の性なら売り物にしていいというラノベ業界の歪んだ体質の一端を垣間見た気がします。
閑話休題
とにかく「WEB小説からのデビュー」を実は自力で経験していた僕は、「売れない作家」として活動を続けながら、新人賞に送るよりあのままWEB小説でずっとモノを書き続けている方が正しかったんじゃないのかと考えるようになりました。
商業活動していた当時も、担当の方に「まずWEBで公開して人気を集めてから出版するという今の時勢に沿ったやり方はどうか」と提案したこともあるのですが、「それはできない」とにべもなく却下されています。
(その後、同じレーベルの別の編集さんが、これと全く同じ手法で担当作を刊行してるので、どうやら不可能ではなく担当のやる気に寄りけりなんでしょうね)
前回の焼身炎上事件を起こして商業出版の舞台をアイキャンフライしてしまった僕は、頭が燃え上がった状態のまま、歩みを止めることなく次に何をすべきか考え続けていました。
何をおいても第一は、打ち切りを脱した作品を、あらゆる媒体を使って継続し、完結させること。これ成し遂げない限りには、自分は前にも後ろにも進めないと思っていたからです。
そして、作品はただ書いただけでは作品とは呼べません。ただの文字の羅列です。
作品が作品になるのは、読者に読まれたそのときからです。
漫画では未完結作品の続編を、同人誌などで個人出版する作家さんも大勢いますが、それは作品を生き延びさせているというより、安楽死させているだけのように思います。
そもそも僕が作家としてのデビューを目指した一番の理由は、「出版されれば多くの読者に読んでもらえる」と思ったからで、裏を返せば読まれることさえできれば媒体は最初から何でも良かったのです。
他人を妬んだり羨んだりするぐらいなら、むしろ自分がそれになってしまえばいい。
そういった思いから、「小説家になろう」のアカウントを取得して、すっかり様変わりしたWEB小説の舞台に再び飛び込んでみることにしました。
ただこのとき、炎上の焦げ跡を残していた僕は、当時の作家名のまま活動を再開したところで、色眼鏡で見られるだけでしかないと判断しました。
自分がWEB小説という舞台でどこまでやれるのかを見定めてみるために、名前と作風を一切変えて、謎の新人アマチュア小説家「骨髄にゅる太郎」という名義で新作のWEB連載を始めました。
なんだこの名前
こちらがそのときの作品です。既に完結済みのものですが、ご参考までに。
『世界が正義に満ちるまで ~いじめられっ子の僕が悪の首領になって世界征服を始めた理由~』
http://ncode.syosetu.com/n9962ce/
当時、幾谷正という名前はラノベ界隈から艦これ界隈から、お尋ね者のように忌み嫌われ、あちこちから飛んでくるクソリプに対し、睡眠薬と精神安定剤を噛み砕きながら毎日のようにレスポンチバトルを繰り返していました。
しかし一方で炎上作家とは何の関係もない新人作家の骨髄にゅる太郎は、毎週更新を粛々と続け、着々とブックマークとポイントを増やしていきました。
毎日のようにTwitterで炎上発言と呪詛を繰り返す自分の当時のツイートと、その同じ日に淡々と更新されている作品の投稿履歴を見比べると、なんだか二重人格の患者を診ているようで我が事ながら空寒いものを感じます。
とにかく半身燃え上がりながらもなんとか「もの書きとしての人格」を切り離し、ネット上で生き続けさせることに成功したわけです。
この『ちるまで(略称)』という作品は、商業活動時に温めていたプロットの一つで、流行りの異世界転生からは全く背を向けた現代SF青春ラブコメ群像劇的な何かですが、まあ刺さる人には刺さっていただけたみたいで意外と大健闘しました。
まとめサイトで作品が紹介されてからは閲覧数が爆発的に伸びて、一時期はジャンル別ランキングで同じSFジャンルの『ログ・ホライズン』を抜いてたこともあります。クリリンだって界王拳使えばフリーザに一発入れられるんや!!!!
また最近気付いたことですが、累計閲覧数から類推される読者数は明らかに数万人を越えており、事実上〝僕がデビューしてから今までに書いてきた作品〟の中で〝一番読まれている作品〟は、この習作として書いた無料WEB小説だということになります。
もし同じ程度の実力を持った2人の作家がいて、WEBで作品を出すのと新人賞に送るの、どちらが作品を多くの人に読まれるかという実験。僕はそれを、一人二役をこなすことで自ら実験しました。
異世界転生のような、ジャンル補正の強い題材をあえて避けた理由の一つは、ここにあります。現状では受賞して無名の新人として圧倒的にWEB小説の方だという結論でした。
もちろん大手レーベルでの受賞となれば注目度も違うので、一概には言い切れません。とはいえ大手レーベルで受賞する見込みがないならば、弱小レーベルへの応募へ妥協することは全く推奨できません。あなたの作品とその読者を間違いなく不幸にします。
デビュー作も2作目も、出版して買われた数は1万冊に届かない程度。その買われた全てが、実際に読まれたかどうかも分かりません。
また、五年も前に出されて打ち切られた作品を、今から手に取って読み始める読者はどれぐらい居るのでしょうか。古い作品を読むのなら、せめて打ち切りではない完結している作品を選ぶ人の方が多いでしょう。
アニメ化された人気作でもない限り、新刊が平台に置かれるのは発売から長くても一ヶ月。早ければ2週間で入れ替わり。そのたった2週間で、作品と作者の評価は決まってしまいます。
売れ残った新刊は、1冊を棚差しに残して残りは全て返本。しかも棚に降りてくる作品は年100冊と膨大な数増え続けるので、その1冊が売れてしまったら補充されることもないでしょう。
僕が商業デビューしたという痕跡はどこにも残っていませんし、今後読者が増える可能性も本当にごくごく僅かです。
一方、WEBで無料公開している『ちるまで』の方は、いまだに毎日読まれ続けています。(僕もさっき確認してちょっとビックリしたんですけど)
どうやら「なろう」には、完結済みの作品しか読まないという層がいるみたいで、書いている途中を追ってくれる読者も、書き終ってから読み始める読者も両方居るみたいです。
「多くの人に読まれること」を目的としてつかみ取ったデビューですが、実際にはWEBで無料公開した方が、圧倒的に読まれる人数は多いです。
確かに賞金が100万とか印税が50万とか、お金はもらえます。しかし、お金を手に入れる楽な方法なんて、現実には他に幾らだってあります。
逆に、「100万円払って読者を1万人作る」ことができるでしょうか?
その不可逆性を考えれば、読まれるという目的のために新人賞へ送るのは、僕はあまりオススメできないなあと気付かされました。
そして同時に、「作品を多くの人に知られるための場所」として、WEBを利用することがいかに強力かを思い知り、それが〝電子書籍〟という舞台に戦場を移すきっかけへと繋がっていきます。
書籍化するほどの大ヒット――なんてのは分不相応な目論見でしたが、とはいえ得られた経験と読者の数は多かったので、やってみて良かったと思います。
また、まるで〝ズル〟のように思えていたWEB小説からのデビューという道のりが、新人賞を獲得する以上に途方もなく大変なもので、センスの問われるものなのだとやってみたことで改めて実感しました。
最初は妬ましく思っていたWEBデビューの作家に対しては、今では同じもの書きとして尊敬していますし、むしろ見習うべき部分の方が多いです。
(働きながら毎週更新するだけでも死ぬほどたいへんだったので、毎日更新してる人たちはほんと化物じゃないかとしか思えない)
とにかく順調に読者数を伸ばし続け調子に乗った骨髄にゅる太郎先生は、炎上作家としての本性を徐々に現し始め、遂にある挑戦へと乗り出します。
それは、WEB連載している作品を、自分で電子書籍化して販売するという大勝負――そしてこれが、またもや自分を自分で突き落とす、一大投身自殺の幕開けでした。
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