~エッセイ編~
1.オタクが売れない作家になるまで
僕の小学生のときの夢は、漫才師になることでした。
これはお笑い好きな当時の友人から、「学芸会で漫才をやりたいからツッコミ役をやってくれ」と誘われて、安請け合いしてしまったときに抱いた夢です。
要するに他人の受け売りというかたちではありますが、人を楽しませることの面白さや快感を知ったのは、たぶんあれがきっかけだったんだと思います。
(ちなみにその友人は、伝え聞くところによると東京でお笑い芸人の養成学校に入って、いまだに本気でその頃の夢を追いかけているらしいです)
中学高校と経るにつれて、僕の興味はお笑いから深夜アニメ、漫画、ゲームとオタク一直線に突っ走っていきました。
友人にソフトを借りて遊んだスパロボが面白すぎて、ロボットというジャンルにどっぷりはまり、レンタルビデオ店に通いつめつつ、深夜アニメのチェックも欠かさないというハマリっぷり。
ライトノベルという分野に対しては、特に固執していなかったというか、あくまで好きな娯楽の一つという程度の認識だったと思います。
けれど、ストーリーを通して人を楽しませること、物語を表現する手段として、もっとも自分の手に届く範囲にある現実的な目標だとは感じていました。
ただ自分が創作を目指すうえで一番の欠点だったのは、自分が好きになる作品がとにかく売れな……ニッチな作品ばかりだという点でした。
好きになった漫画は打ち切られる、ハマったアニメは2期が来ない、読み始めたラノベは未完結ばかり。とにかく好きになる作品全てに「面白いけど売れない」という言葉がジレンマのように付きまとい続けます。
そんな普通のオタクとして大学生活を送りながら、授業をサボって図書館にひきこもり、好きなSF小説をよみふけり、レポートの資料を探すふりをして創作のネタを探し、ラノベを書いては新人賞に送るという生活を続けました。
そんな僕が念願叶って新人賞で審査員の目にかかり、受賞をいただいたわけですが、そのとき選考委員の方からいただいたコメントがこちら。
「この作品が今のライトノベル市場で売れるビジョンがまったく見えない」(原文ママ)
ぶっちゃけ僕はこのコメントを頂けたことを、いまだに本気で喜ばしく思っています。
自分が憧れてきた「面白いけど売れない作品」を書く側に、自分が本当になってしまったわけなのですから。
ただやはり、商業出版という場は、僕の個人的な自己満足を満たすための場ではなく、あくまで商品を売って対価を得るためにこそあるもので、デビュー作の売り上げはあまり振るいませんでした。
とにかくそんなこんなで、僕のデビュー作は結局成績がふるわず3巻で打ち切り。
自分の実力不足を感じ、次こそは長期連載できるような作品を書こうと胸に誓い、その作品は未完結作品として終わることとなりました。
とにかく自分に残った無念は、あれだけ読者として味わってきた「好きな作品が完結しない」という苦い思いを、期待していただいた読者さんに自分が味合わせる立場になってしまったこと。
そして、「売れる物が書きたい」という感情と「書いたものが売れて欲しい」という感情は、決して余人には一致しえない――もし一致すれば、それが才能と呼ばれるものなんだという気付きでした。
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