4.作家が編集をするということと、イラストに関するあれこれ

 さて、ここまで色んなテクニックをご紹介してきましたが、そろそろ作品も完成に近づいていると思います。

 中身の本文ができて、マークアップを施し、スタイルもこだわって改良することができました。


 あとはコンバーターで変換して、ストアに登録するだけ――と思いきや、本文と同等かそれ以上に大切な、重大な要素が見落とされていると気付くでしょう。


 そう、本を作成するための表紙と挿絵の作成です。


 文章もイラストも、全て自分で出来てしまうスーパーマンなら心配のない話ではありますが、自分を含む多くの人間に天は二物を与えていません。

 自分の場合、本を作ろうと思う度に親しい友人へ声をかけて、作成を手伝ってくれないかと相談してから始めることにしています。


 友人同士のお願いとはいえ、本を作るために人を探して手配をし、具体的な作業を指示するとなれば、これはもう立派なディレクション作業です。


 個人出版は「作家と編集を一人で兼任する作業だ」と言いますが、「じゃあ編集って何をしてるの?」とか「作家さえいれば本なんて出せるんじゃないの?」という疑問は当然あるかと思います。


 一般的に、編集と呼ばれる人間のもっとも主立った業務は、本文の編集業務エディションではなく監督業務ディレクションの方だと思います。

 テキストライター、イラストレイター、デザイナー、校閲、印刷、エトセトラ。本が出版され、販売されるまでには色んな人間の手が必要とされます。

 編集自身がこれらの仕事をできる必要は必ずしもなく、全くできないことも多いです。だから「編集なんてものは不要だ」と勘違いをされるかもしれませんが、実はこうした大人数の人間が流動的に作業を行う仕事において、仕事を管理する仕事というものが必要とされてきます。


 それぞれの人間が、何をしているか。作業がどこまで進んでいるか。耐えず把握し、作業が滞らないよう適切に仕事を割り振って監督を行うのが、編集の行うべき本来の仕事なんだと思います。

 僕は今回、イラストレイターの友人にイラストの指定をしたり、校閲を友人に頼んでみたりと、色んな人に協力してもらって本を作っていくうえで、この事実に改めて気付かされました。


 もっとも、電子書籍の個人出版は、商業出版における書籍印刷と比べて様々な作業や工程が簡略化され省人化されています。セルフパブリッシングには編集が不要なわけではなく、作家一人で作業がまかなえるぐらい編集することの難易度が低いと考えていいでしょう。


 前置きが長くなりましたが、編集としてイラストレイターに作業を頼んで進めてもらう限り、様々なことを前もって決めておかなければなりません。

 ただ、こちらから「表紙と挿絵を描いて」とお願いして丸投げしても、決して理想どうりのものは出てきませんし、また本の完成度も上がりません。


 幸い、作品のことを誰よりも理解しているのは作者自身なので、編集という他人に作業を任せるより確実な部分は多いです。

 担当編集が作家と同じぐらい、作品に対して理解をして全力を投じてくれるなら安心して任せられますが、現実にはそうはいかないので。


 イラストをお願いする際において、まずは完成している原稿に目を通してもらい、イメージの共有をはかるところから始めます。

 初稿が上がってから作業に入るのが理想的ですが、プロットが固まった段階でキャラクターのイメージやモチーフなど、デザインしやすい情報をあらかじめ伝えてディスカッションしておくのも良いでしょう。

 「このキャラクターは性格が決まっているけど容姿は決まっていない」といった場合、事前に相談してみることで、イラスト側の方から「じゃあこういう衣装にしよう」とアイデアをもらえることもあります。


 やはりイラスト側にも描きたいモチーフや得意なデザインというものはあるので、見た目に関してはできるだけそれを尊重してもらった方が、確実に完成度は上がると思います。

 事前の段階でキャラクターの設計に関わってもらうことで、こうしたお互いのベストを作品に反映できる余地が生まれるのは、個人でやってみて良かったことだと感じます。


 次に、具体的なイラストの点数と仕様についての策定です。

 プロットが固まった段階で、ある程度ここに絵が欲しいというイメージをあらかじめ組み立てておき、具体的にまとめておきます。


①イラストのサイズは縦横何pxか、解像度はどれだけか。

②難しい構図か、簡単な構図か。人数はどのぐらい要るか。

③時間がない場合に備えた優先度プライオリティの順序。


 最低でも、これぐらいの事項については、あらかじめ作業をお願いする前に固めておきましょう。


 イラストのサイズと解像度については、もちろん画像の解像度とサイズを大きくすれば、それだけ綺麗に表示できますが、今度は書籍全体のサイズが大きくなり、販売価格が高くなったりダウンロードに時間がかかったりと、問題が膨らみます。

 特に僕が作ろうとしていた書籍は、キャラクターイラストも含まれるため枚数自体が多く、できるだけ下限を攻めたいという目論見でした。


 幸いにも電子書籍という媒体は、表示される端末がかなり限定されています。たとえばKindleタブレットだと、FireHD10の10.1ディスプレイが現状のハイエンドですが、シェア自体はそこまで高くなく、これに合わせる必要はないと思われます。

 その時点でシェアと性能がもっとも高いと思われた、FireHD6の1280 x 800 (252ppi)が表示の最大仕様だろうと予想し、作成する画像もこの設定でお願いしました。

 見た目のクオリティにこだわるか、サイズ性能にこだわるか。どちらが本の質を向上させるか見極めて判断するのも、編集にとって重要な作業です。


 次に、枚数だけでなく構図や人数など、掛かる時間の見積もりに必要そうな情報をできるだけ具体的に、場合によっては自分でラフを描いたりしながら詰めていきます。

 これは、タイムスケジュールに見積もりを作るためで、それなりに経験のあるイラストレイターなら、構図と人数を伝えただけで「これならどれぐらいで描けるか」の大まかな見積もりを出してもらえます。

 もし作業の早さを優先したいなら、構図を簡単にしたり人数を減らす方向で仕様を調節していきます。また、同じ難易度の構図でも、人によって得意不得意があるので、そのシーンへ合わせるのに問題がなければ構図の指定を変えてしまうのも一つの手です。


 最後に、頼んだイラストが全て揃うのが本来なら望ましいですが、どうしても間に合わない状況というのもあり得ます。

 ぶっちゃけ個人出版というものは、完成したそのときが締め切りなので、完成するまでリリースを遅らせるというのも一つの手です。

 ただ、時間をかけ始めてしまうとキリがありませんし、どこかで終了のタイミングを決定するのも編集の責任ある仕事の一つです。


 なので、不測の事態に備えて、あらかじめ「これは落としても大丈夫なイラスト」「これは絶対に必要なイラスト」といった優先順位をあらかじめ決めておきます。

 優先順位が高いイラストから順に作業を進めてもらい、間に合わなかった場合は低いモノを削るというかたちです。

 例えば表紙はどう考えても絶対に必要なものなので、優先順位は最上位。

 本来なら欲しいけど、このキャラは別の挿絵でも登場するから、なんて場合には優先度を低めにといった具合です。


 これを事前に決めておかないと、土壇場になって「ここの挿絵だけはどうしても欲しいと思ってたのに、なんでまだ手を付けてないのか」なんて形で一悶着起きてしまう可能性もあり得ます。

 お互いの円滑な関係を崩さないためにも、こういった意識共有はできるだけ積極的に、早め早めに行っていきましょう。


 最後に忘れてはいけない、ロイヤリティの配分の話です。


 僕は常々、編集が作品作りへ真剣になるためには、作家と同じ実売数で報酬を受け取るべきだと考えていました。

 なので、ロイヤリティの配分については、イラスト担当の友人と相談して、以下のように決めています。


作者:4割

イラスト:4割

編集:2割


 作品作りを共同で進めているイラストレーターとライターは、公平を期すためにどちらも同じ4割。書籍の作成や宣伝販売など、必要な作業を行う編集が2割を配分されるという考え方です。


 とはいえ実のところこれは建前で、作成を自分が一人で行っている都合上、編集という存在は実のところ存在しているようでしていません。なので、本文制作と付随する作業を行っている僕が6割、イラストレイターが4割という配分になっています。

 面倒なことを言わず5:5にしてしまうのが一番てっとり早いんですが、それだと相手側が申し訳ないということで、面倒な作業を負担している分の調節を1割で行っているかたちです。

 また、この配分制度の良いところは、今後本当に編集という立場を用意する必要が生じた場合、その人間に2割を渡すというかたちで配分が済むという点です。


 人によっては「あらかじめ固定金額を決めてそれだけ渡してお願いする」というやり方もあると思いますが、それよりはやはり、頑張れば頑張るほど売り上げと実入りが上がるという形にした方が、お互いにモチベーションが上がるものです。

 ぶっちゃけ、僕がお願いしている友人のイラストレーターとしてのクオリティを考えれば、本来はもっと大きな金額を渡したいぐらいだと考えています。

 現状の売り上げの配当だと、おおよそ相場金額の半分ぐらいとなってしまっています。


 今後より一層努力して、イラストを担当してくれている友人に相場相応かそれ以上の金額が渡るようなかたちにしたいというのが、今の自分の目標の一つです。

 またこの試みがもし成功すれば、多くのイラストレーターにとって、フェアに自分の実力で報酬を得られる魅力的な舞台を得られることになると思います。


 文字書きと絵描きの最小二人で戦えるセルフパブリッシングの舞台は、第三者に不要な仲介料を渡したり、無関係な都合に巻き込まれてしまう心配もありません。

 また、同人出版のかたちでも同様のことはできますが、印刷コストが掛からない分利益を上げることが可能なので、クオリティに対する成果が報酬として自分に返ってきます。


 確かにお金がなくても作品は作れますが、良い作品を作り続けるためにお金は必要なものだと僕は考えています。

 クオリティ維持の為に、こうしたマネタイズを積極的に行っていくこともまた、編集としての自分の役割なのでしょう。

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